ロイターが伝えた城南信用金庫・吉原毅理事長のインタビューが圧巻すぎる。複雑怪奇な言説がはびこる原発問題を、竹を割るように見事に切り分けた。
「しかし、金融に限らず企業の目標は、より良い国や社会を構築することだ。すべての企業は、理想の実現のためにある。経営者は、金儲けだけ考えればいいというのはおかしいのではないか」
これは金融機関のトップが政治的発言をすることは極めてまれだ、との指摘を受けて引き出された言葉だ。国論を二分する1つの側に付くと顧客にそっぽを向かれるのではとの質問には、「お客様は神様です」的な企業姿勢を痛烈に批判した。
「消費者のニーズに応えることが企業、つまり消費者主権という考えは間違えていないか。例えば当社は、投機のためのゴルフ会員権購入のための融資はお断りする。そういう資金使途には貸せない。健全性とは何かを考え、顧客にも説明していく。それが金融マンの役割だ」
さらにとどめの一言。
「福島第1原子力発電所の事故で分かったことは、将来の世代に責任を持てないエネルギーということだ。もはや原発は反社会的存在だ。原発を造る金を貸せと言われたら、お断りする」
インタビュアーは、このところマスコミの論調の定番となっている「コストの安い原発を動かさないと経済が立ち行かない」というテーゼをそのまま直球で放り込む。対する吉原さんは経済界の大勢が挙げる理屈にも臆することなく易々と打ち返してみせる。
「原発のコストの方が低いという人で、いやしくもビジネスマンや経済に携わる者ならば、会計の原則ぐらい勉強していただきたい。コスト計算には、直接原価と間接原価があり、そこで総合原価計算が行われる。原発は、今あるウランを使うだけならば直接原価は低い」
直接原価だけで原発を低コストとするような人は、会計の基礎を勉強した方がいいと。吉原さんは間接原価こそが問題だと指摘する。そして、この言葉につながる。
「1回事故が発生したら、天文学的なコストがかかる。貸し倒れ引当金の積み立ての考え方を入れれば、とんでもない引き当てを積まなければならない。これは、不採算というのではないか。国家ぐるみの壮大な粉飾決算だ」
インタビューのクライマックスにも思えるこの発言の後も、原発再稼働と電気料金の問題、化石燃料を大量輸入することによる経常赤字の問題、大手行の公共性など、鋭いやり取りが続く。
ブレない論は読んでいて爽快だ。ぜひページで全文を。
インタビュアーは布施太郎さんと浦中大我という人たちということだが、経済紙の記者なら必ず繰り出すであろう定型的な質問をあえて投げ込み続けることで、吉原さんのシャープな論を見事に引き出した。インタビュアーは確信犯だ。