3月18日(火曜日)公開の「福島第一原子力発電所の状況について(日報)」を、前日からの変化や変更を中心に見ていきます。
冒頭では「多核種除去設備(ALPS)」のホット試験(実際の処理水を使っての性能確認試験)が、3系統あるすべてで中断したことが記載されています。
多核種除去設備(ALPS)すべての系統で処理中断
放射性核種を分離する「多核種除去設備(ALPS)」の全系統で処理が中断していると記載されました。
※今後の廃炉への工程を左右しかねない重大な事態の可能性があります。
「多核種除去設備(ALPS)」がどのような役割を果たす設備なのか、発電所内の現在の水処理の流れを振り返ってみましょう。
▼原子炉建屋やタービン建屋地下に溜まった高濃度汚染水を集中廃棄物処理施設に移送
▼集中廃棄物処理施設に設置された装置でセシウムを吸着・除去。セシウムが取り除かれた水は、淡水化装置へ移送。(除去したセシウムはコンクリート容器に入れて保管場所へ)
▼淡水化装置(RO)では逆浸透膜で淡水と塩分やそのほかの放射性物質を含む濃縮塩水に分離。淡水と濃縮塩水の生成割合は約5:5で、淡水は原子炉の冷却水として使用される。濃縮塩水はタンクで保管。(水漏れが問題になったH6エリアのタンク内にあったのも、このRO濃縮塩水)
▼塩分のほか、多種多様な放射線核種を含むイオンなどが融け込んだ濃縮塩水から、放射性核種を除去するのが「多核種除去設備(ALPS)」。
◇ つまり、ストロンチウムなどセシウム以外の核種を取り除く装置であるとともに、敷地内に増え続けるタンク問題を解消する上でも早期の正規運転が待たれている設備なのです。
※ ALPSの全3系統の処理能力を合計すると750m3/日。1日に溜まり続ける水が差し引き400トンと言われていることから、ALPSがフル稼働することで原子炉建屋やタービン建屋地下の水を減らすことが期待されています。(廃炉を進める上で欠かせない機能を担っている設備ということ)
「日報」の記載は下記のとおりです。
※多核種除去設備(ALPS)では、汚染水処理設備にて処理した廃液を用いた試験(ホット試験)を行っているが、本日(3月18日)、3系統(A系,B系,C系)あるうちの1系統(B系)について、午後0時4分にフィルタの酸洗浄のため停止している。
B系はすでに停止中であるが、本日、3月17日に採取したB系の処理後の出口水の全βの分析結果が10の7乗Bq/L程度であることを確認した。
多核種除去設備(ALPS)の入口水については、全ベータで10の8乗Bq/L程度であり、処理が不充分となっている可能性があることから、
念のため、A系について同日午後1時38分、C系について午後1時39分に処理を中断した。
現在、現場状況等を確認している。
停止中のB系の「処理前の水」と、「処理後の水」の全ベータ線量を比較したところ、線量の低下がわずか一桁しか見られなかったことから、処理が不十分になっている可能性が浮上。ホット試験中だったA系、C系についても処理を中断したという報告です。
ALPSで取り組まれているホット試験とは、実際の処理水(セシウム除去後の処理水や淡水化装置で分離した濃縮塩水など)を使って、
・放射性物質の除去性能
・吸着剤などの交換時期までの間、除去性能が維持されるかどうか
を検証するためのテストです。ストロンチウムやコバルトなど核種ごとの化学的な性質を利用して沈殿したり吸着したりするのがALPSの仕組みなので、数多くのシステムを構成する機器の動作確認・信頼性確認など工学的な検証だけではなく、吸着材や処理速度の調整など、化学的な見地からの試行や検証も行われています。
2013年3月30日にはじまったホット試験ですが、5月17日付の「多核種除去設備のホット試験の実施状況と今後の対応について」には次のような記載がありました。
測定・評価が完了した61核種の放射能濃度は、告示濃度限度以下
処理対象水と比較し、主要な核種であるSr-90の放射能濃度は、1/100,000,000程度に低減
ストロンチウムに関して「1億分の1」に低減する効果があったものが、
わずか10分の1オーダーの処理能力になってしまった。
早急な原因解明が待たれます。
1,2号機超高圧開閉所の周辺での雑草火災(平成24年10月19日発生)の推定原因と対策
平成24年10月19日に発生した雑草の火災について、推定原因と対策が新規事項として記載された。
※平成24年10月19日に発生した1,2号機超高圧開閉所の周辺における雑草の火災について、推定原因と対策を以下の通り取りまとめた。
【推定原因】
平成24年10月10日の除草作業において、草刈り機で光波レーザー測量計用電源ケーブルを切断したが、切断時は発火せず、その後の湿潤と乾燥の繰り返し等の影響で、同年10月19日にトラッキング(絶縁物の沿面放電)による短絡、またはケーブル端部接触による短絡により発火したものと推定した。
【対策】
(1)発電所敷地内に敷設された100V以上の電源ケーブルは、保護管(エフレックス管)で保護し、ケーブル施設標識を設置した。また、未使用の100V以上の電源ケーブルについては元電源を「切」にした。
(2)草刈り機による除草作業を行う際は、除草エリアを所内周知し、関係箇所に電源ケーブル、エフレックス管等の敷設情報の提供を求める等の対策を実施する。
◆トラッキング(絶縁物の沿面放電)による短絡
⇒難しい言葉で説明されていますが、コンセントに差し込みっぱなしにしている電気プラグに埃が溜まったところが、発火を繰り返し、やがて抵抗が大きい状態で通電して発火するという、あの現象を言っています。
◆ケーブル端部接触による短絡
⇒こちらは、草刈り機で切断したケーブル(コード)の銅線が接近または近接してショートして火花を飛ばせたということでしょう。
◆100V
⇒家庭用として一般的な二つ口コンセントで送られてる電源。
◆エフレックス管
⇒波付硬質ポリエチレン管。エアコンの室外機の排水ホースのように波型の付いたやや硬めの樹脂製の管。
◇ 発生から1年半近く経っての「推定原因と対策」にどんな感想を持ったか、皆さんのご意見を教えてください。(文末コメント欄に記載していただけると幸いです)
1号機~6号機
昨日分からの新規事項なし。
◆1号機
・復水貯蔵タンク(CST)を水源とする淡水を原子炉へ注水中
・原子炉および原子炉格納容器へ窒素封入中
・原子炉格納容器ガス管理システム運転中
・3月14日午前6時48分、1号機使用済燃料プール代替冷却系について、1,2号機排気筒の落下物に対する防護対策等を実施するため、冷却を停止(停止時プール水温度:12.0℃)。なお、停止期間は3月24日までを予定しており、冷却停止時のプール水温度上昇率評価値は0.066℃/hで停止中のプール水温上昇は約16.5℃と評価されることから、運転上の制限値60℃に対して余裕があり、使用済燃料プール水温度の管理上問題なし。
◆2号機
・復水貯蔵タンク(CST)を水源とする淡水を原子炉へ注水中
・原子炉および原子炉格納容器へ窒素封入中
・原子炉格納容器ガス管理システム運転中
・使用済燃料プール循環冷却系運転中
・2号機タービン建屋地下→3号機タービン建屋地下へ高濃度滞留水を移送中(平成26年3月8日午前10時5分~)
◆3号機
・復水貯蔵タンク(CST)を水源とする淡水を原子炉へ注水中
・原子炉および原子炉格納容器へ窒素封入中
・原子炉格納容器ガス管理システム運転中
・使用済燃料プール循環冷却系運転中
・3号機タービン建屋地下→集中廃棄物処理施設(高温焼却炉建屋)へ高濃度滞留水を移送中(平成26年3月12日午後3時48分~)
◆4号機
・原子炉内に燃料なし(使用済燃料プールに保管中)
・使用済燃料プールから共用プールへ燃料移動中
・使用済燃料プール循環冷却系運転中
◆5号機
・冷温停止中
・使用済燃料プール冷却浄化系運転中
◆6号機
・冷温停止中(燃料は全て使用済燃料プールに保管中)
※残留熱除去系ポンプ吸込ライン(A系、B系共通ライン)に設置されている安全弁(F-005)の点検が終了したことを受け、タービン補機冷却水系熱交換器(C)海水出入口弁他の点検を行うため、補機冷却海水系を3月18日から24日にかけて停止する。当該期間においては、燃料プール冷却浄化系(FPC系)が使用できなくなるため、残留熱除去系による非常時熱負荷運転(使用済燃料プール冷却)を行い、使用済燃料プール冷却を実施する。
3月17日午後1時50分、FPC系を停止し、同日午後2時26分残留熱除去系(RHR系)による非常時熱負荷運転を開始。なお、使用済燃料プール水温度は17.5℃と変化なし。
共用プール・水処理設備および貯蔵設備の状況
◆共用プール
新規事項なし。
◆水処理設備および貯蔵設備の状況
・セシウム吸着装置停止中
・第二セシウム吸着装置(サリー)運転中
・淡水化装置は水バランスをみて断続運転中
・多核種除去設備(ALPS)ホット試験中
サイトバンカ建屋からプロセス主建屋への溜まり水移送を終了したらしい。
・集中廃棄物処理施設において、サイトバンカ建屋→プロセス主建屋へ溜まり水の移送を実施(平成26年3月17日午前11時15分~午後7時20分)
H4,H6エリアタンク周辺観測孔(周辺排水路含む)の状況、タンクパトロール結果(見出しが変更されています)
漏えいが相次いだタンクエリアのパトロール結果と、周辺の観測孔や排水路のサンプリング等を記載。
※H4エリアIグループNo.5タンクからの漏えいを受け、同様の構造のタンクの監視、および詳細な調査を継続実施中。
<最新のパトロール結果>
3月17日のパトロールにおいて新たな高線量当量率箇所(β線による70μm線量当量率)は確認されていない(一部実施できない場所を除く)。また、堰床部に雨水が溜まった箇所については、雨水による遮へい効果により引き続き線量当量率は低い状態となっている。また、目視点検によりタンク全数に漏えい等がないこと(漏えい確認ができない堰内溜まり水内を除く)、汚染水タンク水位計による水位監視(トレンドによる監視または警報監視)においても異常がないことを確認。
※H4エリアIグループNo.5タンクからの漏えいを受け、福島第一南放水口付近、福島第一構内排水路、H4エリアタンク周辺および地下水バイパス揚水井No.5~12のサンプリングを継続実施中。
<最新のサンプリング実績>
前回採取した測定結果と比較して大きな変動は確認されていない。
※H6エリアC1タンクからの漏えいを受け、H6エリアタンク周辺のサンプリングを継続実施中。
<最新のサンプリング実績>
新たに設置した地下水観測孔G-3において、3月17日に初めて採取した地下水の全ベータの分析結果は以下の通り。今後も監視を継続していく。
(観測孔:G-3(新規))
・3月17日採取分:全ベータ 35 Bq/L
1~4号機タービン建屋東側の状況
サンプリング実績を新規事項として記載。
<最新のサンプリング実績>
前回採取した測定結果と比較して大きな変動は確認されていない。
地下貯水槽の状況
サンプリング実績を新規事項として記載。
<最新のサンプリング実績>
前回採取した測定結果と比較して大きな変動は確認されていない。
以上、「福島第一原子力発電所の状況について(日報)」平成26年3月18日分の変更箇所を中心にピックアップしました。
構成●井上良太
「福島第一原子力発電所の状況について(日報)」の一覧ページ。過去の「日報」との比較に役立ちます。