「まさかプロパンのボンベのことまでは気が回らなかったわ」
会社で雪かきボランティア2回目の今日、午前中に作業に入った団地のお母さんがそう言った。団地と言っても、戸建て住宅が並ぶ地域で、一部の住宅はボンベ置き場から4軒ほどの住宅に配管されていたり、後から建てられた住宅には一個ずつボンペが設置されていたりした場所だったが、未就学児のいるそのお母さん曰く、
「雪はね、軒の高さ。隣の家が見えなかったね。クルマが出せないもんだから会社も学校も休みでね、とにかくクルマを出せるようにしようと、みんなで雪かきしたのね。でも、雪を捨てる場所がないから、通路の脇とか、空き家になっている土地とか、限られたスペースに捨てるしかなかったんだ。ダンナが雪をかいて、私がママさんダンプで運んで、山のようになってるところに雪を捨てて、上の子は捨てた雪を踏み固めて……。それでやっとクルマが出せるようになった。でも、その後になって気がついたのよね、プロパンのこと」
ガスがなければ料理ができない。お風呂も焚けない。家によっては暖房もできない。
「不安? もちろんよ、不安だったわよ。だからね、助かった。ありがとうね」
雪かきしながら、作業の合間合間に聞いた話だったのだけど、ガスは「暖」だ。暖が失われるかもしれないという不安の中、過ごされた数日のことを想像したら……。
午前中の遅い時間までかかって作業が終わって、小さなこどもとお母さんから飴を頂いて、いろいろたくさん「ありがとう」を言い合って、ボランティアセンターへ向かう道すがら、会社雪かきボランティアにパーフェクト参加のF専務が改めてしみじみと、お母さんが言ってたことと同じことをつぶやいた。
「思いも寄りませんでした。雪でガスが使えなくなる恐怖があったなんて」
この地域のガスは大半がプロパンだ。ということはボンベの交換が入れないほどの雪が残るところでは、同じ不便や不安を感じているということ。
午後に作業させてもらったお宅でも、同じだった。ガスボンベは家の敷地の奥の奥にある。ボンベの交換をするには、家の周囲を延々と半周しなければボンベ置き場にたどり着けない。そのお宅ではストーブの灯油を入れていた倉庫も雪に埋もれていた。
「ストーブもヒーターもないから、夜はすぐに布団に入ってたわよ。お風呂も、ガスが切れるのが不安だから、軽くシャワーだけにするとかね。でも、そんなこといいのよ。お願いだから無理しないでね。ボランティアさんが体壊したら元も子もないでしょ」
そんなふうにまで言われて、心が動かないわけはない。すでにスイッチオンのF専務は裏庭の雪のかたまりにダイブして、奥から雪をかくというソロプレーに打って出た。雪に埋もれていた自転車をレスキューして玄関先まで引っ張りだした。
表側から攻めて行ったぼくたちも、清水町からこられたという方と「雪のないエリア」を広げて行った。
もう、アドレナリンが出まくって、体がマシンのように動いてしまう。いや、もうとにかく理屈とかへったくれとかではなく、雪のない場所を広げて行きたくて、そうしたくて、仕方がない。時間的に完遂は不可能な場所だったのに、終了時点では残り3メートルほどまでになっていた。
本日の作業は終了と告げられた時の、チームの面々の表情!
終了だっていわれてるのに、ボランティアセンターへの帰り道、以前担当した現場で積雪の中に切り開いた道の片側の雪が崩れ落ちそうになっているのを目にして、「危ないところだけ補修しましょう」という話なのに、さらに通路幅を広げようとする。
なんでボランティアなんてやるの?
答えなんかない。それはいろいろありますよ。でも答えはきっと後付けで、一歩が出る時には何も考えちゃいないのではないか。ボランティアってそういうものじゃないか。
それはボランティアに限ったことではなく、意味がある行動って、理由もなく動いてしまうようなことなんじゃないか。
会社で雪かきボランティア。今日もたくさんの「ありがとう」がありました。支援要請した方からの「ありがとう」に対して、作業に当たった4,5人が「ありがとう」を返す。
ニーズはまだまだ積み残し。ガスボンベを交換できるようにするだけでも、きっと何十件もあるはずです。
雪は積雪から後、時間経過とともに自重で少しずつ圧縮されて、「積雪の高さ」は減っていきます。でも取り除くか、融けてくれるまで、雪の量そのものは変わりません。重く固く締まっていくだけ。
前へ。
一歩前へ。
明日は、小田原在住の全国人、土居さんと同行して雪害を受けた地域を回ります。
文●井上良太