強行採決の模様を、有田芳生参議院議員(民主)がブログに書いています。こんなことで法案が成立に向けて進んでいくのかとかなり驚かされます。「ひとり残された森まさ子大臣は、緊張した能面のような顔つきで座ったままだった。」という描写が妙にリアル。一読の価値ありです。オススメです。
参議院の特別委員会で特定秘密保護法案が強行採決された12月5日前後、「危殆」という言葉を思い起こさせる動きが相次いでいます。
日本製の武器が世界に?
「武器輸出3原則」を見直す方針が示されたそうです。
新原則では、国際社会や日本の平和と安定のためになると判断した場合、輸出を認める。案件ごとに審査し、国家安全保障会議(日本版NSC)が判断する。
武器輸出三原則とは、共産圏と国連決議による武器禁輸措置をとられた国、及び紛争地域への武器輸出を禁止するものですが、それ以外の地域に対しても、日本はこれまで武器や武器の製造技術、武器に転用できるものの輸出を禁止していました。この原則が変更され、武器輸出の道が開かれることになったのです。
この原則は法律ではなく、政府見解として引き継がれてきたもの。そのオリジンは、安倍首相の大叔父にあたる佐藤栄作首相による1967年の国会発言でした。45年以上継承されてきた大方針が、変更されようとしています。
リニア新幹線が国土強靭化なの?
12月4日には、国土強靱化(きょうじんか)基本法が参院本会議で可決成立しました。災害に強い国造りをイメージさせるネーミングですが、防災の名目でハード中心の公共事業を全国で推進する免罪符のような法律です。昨年、復興予算が被災地以外の場所で転用されていたことが非難の的になりましたが、限られた国家予算を土木建設工事に投下することにお墨付きを与えるものです。被災した福島県の県民紙である福島民報は、12月5日付の論説で「不要支出に監視の目を」と指摘しました。
国土強靱化[きょうじんか]基本法が参院本会議で可決、成立した。大規模な災害、事故への備えをうたう。発生後の復旧を想定した発想を転換し、事前対策に重点を置くとする。ただ、施策の内容を示す政府の国土強靱化政策大綱案は、リニア中央新幹線の東京-大阪間の早期整備に取り組む方針を示す。必要な事業か首をかしげざるを得ない。
(中略)
安倍晋三首相は福島第一原発の廃炉や汚染水対策、除染、住民帰還促進に向けて「国が前面に立つ」と言う。復興への道のりは遠い。関連予算が減らされることがあってはならない。
きわめて表現を抑えた論説です。「自分よりずっと大変な人がいっからさ」という、被災地で繰り返しくりかえし聞いた言葉を、記事を読みながら思い出しました。でもね、みんな内心は憤りで煮え返っていると思うのです。福島県だけでも、ふる里を離れて暮らしている人が10万人を下りません。数え方によって数字は違うようですが、たぶん20万人はいるんじゃないか。ずっと住んできた自分の家に住めなくなっている人は、被災した県を合わせれば数倍に上るのです。
国土強靭化。言葉は頼もしいです。あるべき強度を算定し、そこから逆算して強固な建造物を造っていくという話も一見もっともらしい。でも、だれがあるべき強度を決めるのでしょうか。また、あるべき強度というものは、どんな手順で決められるのでしょうか。僕たちは原発事故で学びました。「想定」のいい加減さと、「想定外」という言葉が言い逃れの道具でしかないということを。
とどまることなき反対の声
参議院安全保障特別委員会で強行採決が行われ、12月6日には本会議への上程が予想される状況でも、反対の声はますます大きくなっています。
下野新聞が足利市出身の映画監督でジャーナリスト、想田和弘(そうだかずひろ)さんの声を伝えています。
法案は防衛、外交、スパイ活動の防止、テロ防止の分野で大臣らが「特定秘密」を指定するとされる。「時の権力者や官僚が自由に国家の秘密を指定できて、しかも何が秘密なのかも秘密だというのはめちゃくちゃだ」
最も気がかりなのは戦争という。「他国と戦争をする準備を進めていることなども秘密に指定され、国民が知らぬ間に戦争に引きずり込まれることさえ考えられる」と恐れる。
与党は6日に会期末を迎える今国会での成立を目指している。
想田さんは「もし法が成立しても、僕は守るつもりはないし、抵抗し続ける」と明言する。「なぜなら法案は明らかに憲法違反だからだ。憲法違反の法律は無効。ジャーナリストや市民が逮捕されたりしたら違憲裁判を起こして抵抗すべきだ」
毎日新聞はピレイ・国連人権高等弁務官の懸念、宇崎竜童さんの「DON’T CONTROL ME」(私を管理するな)とのメッセージなど、反対の声の広まりを記します。
あえて苦言を呈すなら、タイトルです。市民、研究者、芸術家。みんな、ふつうの生活の中ではあまり出会えない人たちです。あなたのお隣さん、駅でいつも一緒になる大学の先生、中年層を中心に今でもカリスマ的な存在であるロックシンガー。そう置き換えるだけで、ずいぶん印象が違うと思うのですが。
毎日新聞では、11月19日に掲載された「覆面官僚作家が警告:特定秘密保護法は霞が関を劣化させる」が必読です。覆面官僚作家とは「原発ホワイトアウト」著者の若杉冽さんのこと。若杉さんは特定秘密保護法によって、官僚が作成する政策の質が大幅に低下することについて懸念するほか、「原発情報の秘密指定」の危険も指摘しています。
政府は「絞りをかけるから(特定秘密の件数は)より少なくなる」(11日、衆院特別委での森雅子特定秘密保護法案担当相の答弁)と説明している。若杉さんはこれにも疑いを持つ。「実は昨年6月、『原子力の憲法』と言われる原子力基本法が改正され、『我が国の安全保障に資する』ことも目的にする、との文言が滑り込みました。それを根拠に原発情報を丸ごと特定秘密化することが可能になった。核燃料サイクル推進派の官僚の入れ知恵ですが、事程左様に秘密が『少なくなる』保証なんて何もないんです」
忘れてはなりません。民主党政権下で改正された原子力基本法には、「わが国の安全保障に資する」ことも目的にすると明記されてしまったのです。原子力の平和利用というのは幻想で、世界的な(こういう時こそグローバルという言葉を使うべきかもしれません)多国間による核安全保障の一部として、原子力発電はあるのです。そのことを追認する形での原子力基本法改正でしたが、僕たちにとっては、原発と原爆が直結するものだったということを、はしなくも思い知らされた出来事でした。
忘れてはなりません。
「ゴーマンかましてよかですか」の小林よしのりさんも、自身のWEBページなどで反対を表明しています。小林さんといえばゴリゴリの保守派として知られていますが、保守かリベラルかといったレベルの問題ではなく、法案そのものが国民を危殆に瀕さしめるものであることが反対の理由なのです。下のページなど痛烈です。
反対している国民は
「法案」そのものの
危険性を問題に
しているのである。
(中略)
公務員は
権力の僕(しもべ)
ではない!
「公」の僕(しもべ)
であるべきなのだ!!
女優の吉永小百合さん、大竹しのぶさん、宮崎駿監督、ノーベル物理学賞の益川敏英博士…、反対の表明はどんどん広がっています。しかし、そんな中でいま現在も国会議事堂の中では、法案が可決されようとしているのです。与党は会期延長も視野に、なにがなんでも成立させる構えです。のみならず、同時進行で武器輸出への道が開かれ、強靭化という美名のもとで建設関連業界への税金投入が進められようとしている――。
この状況に、ひとりの映画監督の言葉を思い出しました。原発事故によって戦争以上に不幸な状況におかれた4人の家族を描いた「朝日のあたる家」の太田隆文監督がブログに綴った言葉です。
どこで日本人は間違ったのか?
絶望的な状況から明日を見つけ出す。僕たちの歩む道は想像以上に辛いイバラの道であるようです。でも僕たちの行く道はこれしかないのです。
井上良太