マンモス防潮堤が攻めてきた!!
これまでにない斬新なイラストだ。ぱっと見たところは可愛らしいのだが、よく見てみるとドキッとする。
5階建てビルの高さの建造物が海と陸地の間にずだーっと続く光景、想像できますか。その高さ、奈良東大寺の大仏さまとほぼ同じ。マンモスだったら3頭分。トトロの背丈だと7.5トトロ分!
しかも、そんな計画が、ずっと土地に暮らしてきて、被災して、これからどうしようかと思案し続けている人たちとは離れた場所で決められて、進められているのです。
東北の住民じゃないから関係ない???
こーんなに大っきくて、こーんなに高いんだ
いわき市薄磯の旧・豊間中学校の南側に建設された巨大な台形をしたやぐら。工事現場の足場に使われる材料で組み立てられた巨大な構造物は、この地に建設される防災緑地の断面模型です。多くの場合防潮堤の表面は分厚いコンクリートで固められますが、緑地帯として計画されているこの場所では、表面の多くが樹木などで覆われる予定です。しかしそれでも、10mもの高さで海辺と陸地が隔てられることになるのです。現在のように、町からテケテケっと歩いて白砂の浜辺に飛び出していくことは不可能になります。もしかしたら、砂浜も埋められてしまうかもしれません。
マンモス防潮堤が人間の場所を狭めていく
写真は宮城県七ヶ浜町の有名なビーチ、菖蒲田海水浴場に昨年設置された防潮堤のサイズを示す模型です。昨年から今年にかけて、このような防潮堤の模型が東北各地の海岸に設置されていきました。七ヶ浜町の場合は、防潮堤の高さを低めに抑えて、かさ上げ道路や高台への住宅地移転など、複合的な災害対策を進めているようです。しかし、防潮堤建築によって町のあり方そのものが大きな影響を受けてしまう場所もたくさんあります。
防潮堤は海岸だけに設置されるのでは意味がありません。海に注ぐ川の下流部分にも、当然防潮堤がつくられます。高い防潮堤が築かれることになると、川を渡る橋の高さも変更しなければなりません。橋の手前で急に道路の勾配を変えることはできないので、道路そのものの傾斜も変更されます。さらに、堤防の幅(奥行)は高さ10mの防潮堤で43m以上になるので、堤防の敷地に呑み込まれてしまう土地が大量に出てくることになります。つまり、そこに住めない人がたくさん発生してしまうことになるのです。
マンモス防潮堤の問題点
●漁業や水産加工業など海辺で仕事をする人たちにとって、巨大防潮堤は日常業務の大きな妨げになる。⇒基幹産業である漁業・水産業の問題⇒地場産業が衰退する
●町の景観が激変する。⇒観光資源の消滅、観光業の減退⇒人がやって来なくなる
●町から海が見えなくなることで、海辺や水辺とのつながりが消えてしまう。⇒沿岸部ならではの文化の消滅
●生態系を分断し、生物の多様性を阻害する。⇒人工構造物による生態系破壊
●海が見えなくなることで、津波襲来時に海の様子が見えず危険。防潮堤を過信して避難しない。避難が遅れる⇒宮古市など各地での現実。防災の重要課題
●国費で建設とはいえ、メンテナンスは地方が負担。⇒財政的問題
●延長370kmを8200億円の予算で建設するとしている計画に疑問。⇒税金の無駄遣いでは?
土地に生きる人にとって切実な問題であり、観光で訪れる人にとっては、そこに行きたくなるかどうかの大問題。税金を納めている国民としても、とても看過することのできない巨大プロジェクトなのです。
巨大防潮堤が攻めてきた!!
防潮堤の問題は、現地では震災直後から問題にされてきました(ただし小声で)。しかし、残念ながらこの問題が注目されることはほとんどありませんでした。
防潮堤の問題に正面から取り組んだおそらく最初の人たちは、気仙沼市の「防潮堤を勉強する会」でしょう。賛否が分かれる防潮堤問題に取り組むにあたって結論ありきではなく勉強会というスタンスで、納得できる町づくりを目指してきた活動です。
オーストラリアのタスマニアからは、大塚博子さんが声をあげました。切実な思いを、日本だけでなく世界に向けて発信しています。彼女からのメッセージは世界中の人に読んでもらいたいもの。まさに心からの呼びかけです。
そして、巨大防潮堤のことをもっと身近に考える手助けになるのが、冒頭にも紹介した「マンモス防潮堤が攻めてきた!!」。
「マンモス防潮堤ってなに?」にはじまる「よくわかる防潮堤問題」は、問題点をわかりやすく整理してイラストもいれて見せてくれるページ。マンモス防潮堤が「成長」していた話のように、奥行きの深い話まで明快に示してくれるページです。
防潮堤は生き方の問題でもあるのです。きっと。
●TEXT+PHOTO:井上良太
納得のいくまちづくりを実現するためのベースとなることを目的としております。