アイスクリームのスプーンってどうしてあんな形をしているんだろう。
喫茶店でアルバイトしていた時、ふと疑問に思った。
ティースプーンやコーヒースプーン、ヒメフォークなどなどたくさんをトーションで拭きながら先輩に聞いてみると、
「器を舐めなくてもいいように」
と単刀直入に即答されて、なるほどと唸った。
ティースプーンのようにたまご型だと、器の底に最後に残った溶けたアイスをすくいとるのはたいへんだ。といって、べろりと器を舐めるのは人目をはばかられる。でも、本当のところはべろ~んと舐めたい。
そんな欲望をカタチにしたから、先端が平らな形状になった。実に機能的なカタチなのだ。
となると、スプーンの真ん中あたりがフォークギターのボディみたいにくびれているのはどうしてだろう? という新たな疑問も湧いてくる。先輩はうーんとちょっとだけ考えて、「わからん。マスターに聞いてみな」と匙を投げた。
以下は、わざわざ湧水や温泉水を山まで取りに行って、紅茶とコーヒーで使用する水を変えたりするくらいの凝り屋で、かなり物知りのマスターの話。ただし、思いつきの空論を定説のように語るという憎めない性癖があるので、真偽のほどは保証できないけれど。
「僕らの時代にはアイススプーンとは呼ばなくて、バニラスプーンって言っていたんだよ。喫茶店独特の業界用語かもしれないけど。それはさておき、あの独特のスタイルのことだね。簡単なことだよ。アイスを口に入れてスプーンを口から抜くとき、唇はどうなってる? スプーンに載っけたアイスを残らず食べつくそうと、唇をスプーンに密着させてるだろ? その時の口の形がきれいに見えるように考えられたのが、バニラスプーンのあのカタチなんだよ。キュッとくびれてるところがセクシーだろ?」
うーん、やや同意しかねる説だったけれど、アイスを食べる時には唇をスプーンに密着しているっていうところだけは「なるほど」だった。
と~っても美味しくて、大好きだから、残さずこぼさずぜ~んぶ独り占めしたいっていう気もちが、あのカタチを生み出したことは、まず間違いあるまい。なんの根拠もないけど、そんな気がする。
難しい話はさておき、アイスを食べる時って、ほぼ例外なくみんな笑顔だよね。とくに小さなこどもがアイスを食べる時の表情なんて、そりゃもう最高。
「おいしぃ!」
って気持ちが幸せそうな笑顔からストレートに伝わって来るもんね。◆そんな物語を石巻市門脇の津波被災地で思い浮かべてみた。
きっとこのバニラスプーンも、これまでたくさんの笑顔と一緒にあったんだろうな。