10年前、ある女性から「意味不明」な「メール」が届いた話(後編)

僕はだんだんと彼女がどんな顔をしているのかが気になってきました。しかし、彩さんも同じことを思っていたのでしょうか。

彩「良かったら写メ交換しない?僕君の顔見てみたいな(笑顔)」

……と言いつつ、なんと、向こうから写メを送ってきたのです!

「自分が誰かにしてほしいこと」は「まず自分からする」。これは【返報性の原理】と言うそうで、先に何らかの施しを与えることで、施しを受けた相手はお返しをしなきゃ……という感情を抱くそうです。余談ですが、僕は社会人になって初めてこの言葉を学ぶことになります。

彩さんは、この女性は、それをしっかり心得ていたのでしょう。先に自分の写メを送ってきました。そして、僕の写メを要求しているのです。

とりあえず、まずは彩さんの写メを確認する僕。「エロ画像だったらどうしよう」とワケのわからない、不安と期待の入り混じった感情を抱きつつ、画像を見てみると、そこには普通に可愛くてきれいな女性の姿が写っていました。

マジか、マジか。

僕はテンションが上がりました。いわゆるアヒル口で上目遣いの彩さんがそこにいます。今の僕に言わせれば、出会い系でよく見るような、あざとさ全開の写真なのです。でも、当時は「アヒル口」という言葉もなかったですし、およそ男子高校生の知り得ない独特の色気を感じました。

それに、彩さんとは1週間以上何事もないメールを続けていたので、今さら出会い系のような怪しい雰囲気もありません。僕の察しが間違いなければ、あの画像は本当に彩さんなのだろうと思います。

写真はイメージです

しかし、案の定僕は困り果ててしまいました。

彩さんに返す写メがありません。だって、あんな美人に張り合える容姿なんて、僕には持ち合わせていないのです。

当時の僕は、坊主頭、ニキビ顔、眉毛伸び放題、微妙な私服、というダサさを極めたダサ男。いや、坊主頭くらいならなんとかなるかも知れません。しかし、伸び放題の眉毛と微妙な私服は致命的です。オシャレ感覚が皆無だったのです。

オシャレ感覚は皆無でしたが、自分がダサいことは薄々気づいていました。伸び放題の眉毛なんて、風紀に厳しい中年以上の先生くらいしか評価してくれません。私服だって、親が選んだダサいものがメインですし、自分が選んだものだって大したセンスではないのです。そもそも、日常生活において私服を着る機会もなかったですし。

学校では制服、部活ジャージ、部活ユニフォームくらいしか着ないので、それでも問題ありませんでした。しかし、僕はここで初めて、女性の目線というものを意識したのです。

もちろん、付け焼刃のオシャレをしたって仕方がありません。かと言って、このままメールを止めてしまうのもためらわれます。いちおう自分で写メを撮ってみるものの、どの角度で撮ってもまぁ気持ち悪い。もう、どうしようもありません。

これはもう、世に言う「詰んだ」状態です。

ヘタレな僕は“自分を撮る”ことができないまま、いや、自分を撮るものの、何度撮ってもその顔が気持ち悪いので、彩さんに返信が出来ずじまい。その後も、彩さんからは

彩「どうしたの~?」

とか、

彩「最近は忙しいのかな??」

とか、それなりにメールが来ていたのですが、自分の写メを送れないという理由で、どう返信すれば良いのか分からなかったのです。こうして、心を痛めながらも、僕は彩さんを無視してしまい、いつしかメールも届かなくなってしまいました。

そのくせ、彩さんからもらった写メは普通に可愛かったので、しばらくの間、学校に行けば友人に「今メールしているお姉さん」とドヤ顔をしていた僕。今の僕から見ても、当時の僕はクソみたいな野郎ですね。情けない虚勢を張る前に、もっと自分を磨けよ、と。





……とまぁ、こんな高校1年生だったのですが、今となっては「あの時あのままメールを続けていたら……」と、思わなくもありません。

しかし、誤送信メールからやりとりが続くなんて、10年前のあの当時だからこそ、あり得た話のような気もします。ネットリテラシーの意識が高まった今日では、間違いなく返信をしないはず。そもそも「誤って届く」こと自体がまずあり得ません。

それにしても、彩さんは何に興味を持って、もしくは何を目的に、僕とメールを交わしていたのでしょうか。今なお不思議でなりません。



以上、「意味不明」な「メール」の話でした。





(おわり)