2013年8月28日。NPO法人ロシナンテス(※)の「健康農業 亘理いちご畑」に参加する。
「健康農業 亘理いちご畑」は、農作業を通して体を動かすことにより、仮設住宅で暮らしている方々が、明るく楽しく健康的に過ごせることを目的としている。農作業をした後に、みんなで昼食をとるのも活動の一環だ。
午前中、仮設に住んでいるおばあちゃん方と一緒に農作業をした後、宮城県亘理郡亘理町にある民家を借り切った、通称「ロッシーハウス」と呼ばれるロシナンテス東北事業部に戻ってくる。
そこで、始まったのが流しソーメン。
ロッシーハウスに戻ると誰に言われるわけでもなく、ロシナンテスのスタッフの方々はすぐに準備作業に取り掛かる。手際がとてもいい。
作業は大きく分けると、屋内でソーメンを茹でる作業と屋外で会場を作る作業がある。私は会場づくりのお手伝いをする。
会場はまず、午前中の農作業でも使用したワンタッチテントをロッシーハウスの庭先に建てる。そして、まっぷたつに割った太い本物の竹を利用した流し台を作る。本格的だ。
水はホースを使って近くの水道から引っ張ってくる。竹の角度を微妙に調整して、程よい流れを作る。椅子を設置して会場は完成。
会場ができ、ソーメンが茹で上がると、いよいよソーメンが流れ始める。竹の両脇には、おばあちゃん方とスタッフの方々が陣取る。私も、スタッフの方の間に入れてもらう。担当の方がソーメンを流し始める。みんな虎視眈々と狙う。
流れてくるのはソーメンだけではない。
ミニトマトがコロコロ。
シソの葉っぱユラユラ。
輪切りのキュウリがドンブラコ。
面白い。
「ほら、キュウリさ流れて来たよ!」
おばあちゃんの元気な声が飛ぶ。楽しげな笑顔だった。
私も流れてくるソーメンを狙う。
下流の人のソーメンが無くなるといけないと思い、半分だけすくいあげて食べていると、目の前に座ったおばあちゃんが、流れてくるソーメンの塊を箸でぐっと抑え込み、
「ほら、はよ食べな。ぼく。」
と言った。『ぼく』は慌てて、おばちゃんが抑えてくれているソーメンをすくいあげて食べる。
おばあちゃんは、その後もタイミングを見計らっては流れてくるソーメンを
止めてくれる。味は普通のソーメンのはずなのに、なんでこんなに美味しく感じるのだろう。おばあちゃんの優しさが嬉しかった。
楽しい時間はあっという間に過ぎる。
最後のソーメンが流し終わると、おばあちゃんたちは、
「美味しかったな。」
「おつゆも美味しかった。」
と嬉しそうに口々に言って、お茶をすする。
「仮設じゃ、こんなことできねぇ。ワッハッハッハッ!」
青空の下のおばあちゃん達の笑顔がとても印象的だった。
畑に向かう途中の車内で聞いた大嶋さんの言葉を思いだす。
「過度な介護は、かえって老人の方に良くない。やる気と体を動かすことが必要だ。」
普段はとても元気なおじいちゃんが、介護施設に行くとまるで別人のように老いて見えたことを大嶋さんは教えてくれた。
「高齢者の方々は、薬をすぐにくれるのが良い先生だと思っています。しかし、そうではなく、人を診て、本当に薬を必要とする人に処方する先生が本当の医師ではないのかなと思います。」
大嶋さんは言っていた。
生き生きとしたおばあちゃんたちを見ていると、ロシナンテスの健康農業は、素晴らしい予防薬ではないだろうかと思った。
おばあちゃん方にとって、ロシナンテスは、かけがえのない名医なのかもしれない。
青空の下のおばあちゃんたちの笑顔を見ていると、そんな風に感じた。
<終わり>
(※)NPO法人ロシナンテスは、アフリカのスーダンで医療活動、学校・教育事業、水・衛生事業、交流事業、スポーツ事業に取り組んでいるNPO法人です。東日本大震災後には、宮城県南部を中心に復興支援活動も行っています。支援活動では、宮城県名取市閖上地区、亘理郡亘理町に「寺子屋」を開校し、小中学生の学習指導・支援」や、「"健康農業" 亘理いちご畑」、閖上復興だより発行サポート」、「被災地交流事業」などを行っています。
ロシナンテス東北事業部
Text & Photo:sKenji