この日、宮城県東部には大雨警報が発令されていた。
女川から海沿いにブルーラインを通って雄勝まで行く計画だったが、道路状況の不安からすでに断念。でも女川までは行けるだろうと、国道398号を石巻方面から東へ向かった。しかし、浦宿の先の坂道を下り始めたあたりから、道路の様子がおかしくなってきた。
道の両側から黄土色の水が流れ込んでくる。造成中の土地から泥水がダイレクトに溢れ出している。しかし、女川へのルートは国道398号と、あとは並行して走るバイパスくらい。逃げ道はない。そのまま国道の坂道を下っていって「やられた!」と声が出た。
町立病院(地域医療センター)前の新しく信号機が付けられた交差点の手前100メートルほどが水没している。前を走る車はタイヤハウスまで水没。対向車は車高より高い水しぶきを立てて走ってくる。
「まずい…」
エンジンが停まったらどうしようとハラハラしながら、信号を右折してバイパス側へ逃げる。もう女川の町なかへ行こうなんてアタマはない。しかし、バイパスに接続する100メートルほどの道も、バイパスの交差点も同じくらい水没した状態。
かなり追いつめられた状況の中、なんとか冠水した道路を抜け、バイパスの坂道を石巻方面に向かって戻ることができた時にはほっとした。
途中、きぼうのかね商店街で知り合いのお店屋さんにそのことを話すと、「清水に配達があるけど無理か」とか「町役場にも行けないな」とか、落胆するような、半ばあきらめたかのような声。
その後、石巻ニューゼのレジリエンスバーに行っても、女川冠水の話題で持ちきりだった。ちょうど自分と同じころ、石巻日日新聞の近江社長も冠水場所から引き返したとの情報。ランチタイムを切り盛りする奥さんの近江さんは、
「まとまった雨が降るといつも冠水して通れなくなっちゃうんです。女川に行くには他に道がないから困るのよね。」
お店のお客さんも、
「地盤沈下で海面より低くなっているから、すぐに水が溜まってしまうんだ。」
と教えてくれた。
根本的な問題を解決しなければ復旧もままならない、という声もあった。
晴れている日には、まさか水に浸かるとは思えないような場所が、かなり頻繁に冠水して通行不能になる――。震災から2年4か月。かさ上げ工事が着々と進む女川のもうひとつの顔に出会った気がした。
女川町、冠水危険個所
クルマの構造によっては動かなくなる危険があるので、雨の日はご注意を。
●TEXT:井上良太(ライター)