息子へ。被災地からの手紙(2013年7月17日)その1

2013年7月17日、曇り。(石巻市狐崎浜)
◎本日曇天なれど、引き続き驚くべき一日なり!

定置網を引き揚げ始めるやウミネコの大群がやってきて大興奮!

東松島市の宿舎を出発したのは午前2時。
牡鹿半島の真ん中あたりにある狐崎浜への道すがら、何頭もの鹿に出会ったよ。カーブを曲がったとたん、光る目が4つ。ヘッドライトに照らされて、可愛い鹿の顔が浮かび上がる。写真を撮ろうとしたとたん、パッと逃げ出すのはいつものこと。しかし、牡鹿の鹿はなぜかペア行動のものが多かった。

狐崎浜への到着は3時30分。定置網の漁船の出航時間は4時だから、乗り遅れる失態だけは免れた。少しずつ空が白んできた3時55分、高台の集落から軽トラが何台か下りてくる。その車列の中になつかしい漁師さんたちの顔があった。

誰が何を指示するでもでもなく、4人の漁師さんそれぞれが手際よく準備を進める。
夏の朝空が明るくなり始めるより早く、いよいよ出航。漁船のディーゼルエンジンがうなりを上げるとと、港の防波堤がウェーキの向こうへどんどん遠ざかっていく。

そして、定置網漁を体験。
網に囲われた海中の上の方にいたのはトビウオとカタクチイワシ。
「トビウオをすくって!」と声が掛かる。網の近くに設置した生簀にカタクチイワシだけを移し込むためだ。

漁師さんたちが海面近くを泳ぐトビウオをタモですくい取る。父さんも手伝う。こんなところで伊豆で養殖の仕事をした経験が活きた。ちょっとだけだがね。

船の上はまるで戦場だ。水しぶき、魚しぶき、船上に引き上げられた魚が暴れる。ダダダダダダ…。バッカン(大きなバケツ)から飛び出した魚の尾が甲板を叩くのは32ビート。リズムが昂揚感を高めていく。あっちで、こっちでダダダダダダ…。魚を押さえて空いたバッカンに放り込む。

全身びしょ濡れ。体中に魚のウロコが付いてキラキラ光る。せっかく長靴を履いていったが、魚が甲板で上げるしぶきが長靴の中まで入ってきてグッチュグチュ。でも、そんなの全然気にならない!

トビウオをある程度すくったころ、漁師さんの2人が腰まで海に浸かりながら網と生簀をつなげて一気にイワシを追い込んだ。

海の男たちはすげーなー、と何度も何度もしゃべってた。
漁師さんたちは「?」って表情。いつも通りのことだよ、と言っていた。

上層を泳ぐイワシとトビウオを片付けて、底から網を引き揚げていくと、これまで見えていなかったいろいろな種類の魚が姿を現した。この日、網に入ったのは、カタクチイワシ、トビウオ、マサバ、ヒラマサ、マイワシ、アジ、イシモチ、ドンコ、ダツ、アナゴ、ギンポ(カタナギ)…。

網を揚げながら、漁師さんたちは「今日はダメ」とがっかり顔だったが、素人目にはいろいろな種類の魚を見せてもらえて大満足だった。

その後、いったん上陸して、朝食代わりにヒラマサとアジとトビウオの刺身をいただいて、8時半からカツオの一本釣り漁船へのイワシ供給現場を見学させてもらう。

定置網から生簀に移したイワシは、カツオ漁の撒き餌として使われるとのこと。カツオの群れがいるところに、生きたイワシをバッと撒くと、カツオはイワシにとびかかるように食いついく。カツオの群れが興奮したところに餌のない針を投げ込んでカツオをバンバン釣り上げるのが一本釣り。

イワシの活きの良し悪しが漁を大きく左右する。

「いちばん大切なのは、カタクチイワシだけじゃなきゃダメだってこと。定置網で獲るとカタクチイワシにマイワシも混ざってしまう。でも、マイワシは底に向かって泳ぐ性質だからカツオ漁には向かない。カツオ漁船の船頭は、ちょっとマイワシが混ざっているだけでもイワシを買ってくれないことがあるくらいなんだ。」

なにからなにまでオモシロイ。こんなこというと叱られるだろうが、それでもやっぱり面白い。勉強になることばかり。

海の上で2つの仕事を見せてもらって、大興奮! 大満足!
でも、時計を見るとまだ午前10時半を少し回ったところ。この日の驚きの経験はまだまだ続きがあったのだった。