除染から3年後、トン袋の中身はどうなっているか。

暗闇の中から、大きな黒い塊の群れがヘッドライトに照らされて現れる。

2013年6月1日

それは道沿いに並べられたトン袋。
福島県双葉郡川内村、日没後の国道399号。集落の道路脇に、除染で出た廃棄物がずらりと並べられていた。おそらくは、搬出先が決まるまでとの条件で。

たくさん入る。クレーンで吊れるトン袋

被災地域に行くと、まるで布団袋みたいなジャンボな土嚢を頻繁に目にする。護岸工事が始まるまでの応急処置として、堤防があった場所に積み上げられていたり、除染が本格化した土地で除染廃棄物の運搬と一時保管のために使われていたり。

新聞では「大型土嚢」と表記されることが多いが、建設現場では「フレコン(フレックスコンテナ)」という呼び名も一般的。しかし「土嚢とコンテナとは別物」と袋を作る業者は主張していたりもする。同じ形状なのに呼び名がたくさんありすぎると混乱するからか、両者をひっくるめて呼ぶ通称がある。

それが「トン袋(ぶくろ)」とか「トンパック」という呼び名。

容積がほぼ1立米(りゅうべい。1立米は縦横高さが1メートルの容積)で、1トンくらいの重量を容れられるから「トン袋」、「トンパック」ということだ。
(実際の耐用重量は1.5トンのタイプが多い)

土嚢用に耐候性トン袋が使われるようになった理由

さてこのトン袋、震災直後に港の近くに応急処置的にたくさん並べられたが、設置されて1年ほどでボロボロになってしまったものが多い。理由は主に紫外線の影響。

左の写真は宮城県七ヶ浜町で見かけた通常タイプのトン袋(2012年11月16日撮影)。けっこう厚手で丈夫な袋なのだが、紫外線で化繊の袋そのものが、まるで溶けるように劣化して、中身の砂が飛び出しそうになっていた。

右の写真は今年の6月22日、福島県いわき市豊間で撮影したもの。すでに中身は流れ出して、応急堤防としての体をなしていない。

だからという訳か、最近では海岸線の堤防仮復旧に使われるのは、通常の土嚢ではなく、耐候性のトン袋の場合が増えてきた。

耐候性のトン袋を一目で見分けるポイントは、色が黒いということだ。

左の写真は福島県双葉郡楢葉町の海岸線に設置された、仮設堤防として使われている黒いトン袋(2013年3月7日撮影)。杭に書かれた「終点」の文字は、仮復旧工事の終点という意味。

トン袋のすく傍には、こんな杭も打たれている。
「起点 堤防工 L=650m」
ここを起点に、650メートルの長さの堤防をつくる、という位置決めの杭だ。

堤防工事が完了するまでの間、この海岸を守るのが黒いトン袋の使命。上の2つの写真のようにボロボロにならずに持ちこたえることが見込まれているのだ。

この耐候性トン袋、耐用年数は「3年」ということである。

除染廃棄物は、3年後までに搬出できるか?

同じ黒いトン袋でも、ここに並べられているのは中身が違う。

福島県双葉郡楢葉町のとある場所に並べられていたトン袋には、「おがくず」「ふとん」「不(不燃物の意味か)」など書き込まれた養生テープが貼り付けられていた(2013年6月22日撮影)。まだ満タンになっていない手前の袋には「作業中」の文字。今後も追加して詰めていくということらしい。

これらのトン袋の中身は、近隣の除染で出た廃棄物。ふつうのゴミとして廃棄することができない、放射性のゴミだ。

福島県を中心に除染作業が進んでいる。除染とは言うものの、人間の力では放射線を減らすことはできないから、正確には放射能に汚染されたものを移動させる「移染」とでもいうべき作業だ。

除染では、作業をしただけ除染廃棄物が出る。出てきた廃棄物は、本来なら人間の生活圏から離れた場所にまとめておきたいところだが、「中間」も「最終」も貯蔵施設がまだない。計画も進捗しているとは言い難い。

だから、集落から少し離れた道沿い、あるいは集落の中の道路沿いにどの家から出たものなのか名札を付けて、あるいは除染した家の敷地内に、黒いトンパックが並べられることになる。

富岡町の第一中学校のグラウンドに黒いトン袋が積み上げられていた。青いのもある。

黒ばかりではなく青いタイプの耐候性トン袋。富岡町の新興住宅地の交差点にも置かれていたこのトン袋は、「ランニングタイプ」と呼ばれるもの。使用回数一回のトン袋がワンウェイタイプと呼ばれるのに対して、このタイプは繰り返し利用を前提につくられている。だから、より強度も高い。

でも、いくら繰り返し利用が可能とは言え、中に入れるのは除染で出た放射性の廃棄物だ。何度も詰め替え(それも屋外で)するような場面は想像したくない。

たぶん、丈夫さが買われて、このタイプのトン袋も利用されているのだろう。

でも、どんなに丈夫な素材を使った耐候性のトン袋でも、いつまでも丈夫なままではいられない。写真の青いトン袋の規格は「耐候性試験900時間照射後の残存強度率=初期強度の70%以上」(日本フレキシブルコンテナ工業会)となっている。

つまり――、
いまは一時置き場や、除染現場の近くで保管されているトン袋だが、十分な強度があるうちに、別の場所に移動して保管する必要があるということだ。

中身が入った状態のトン袋を移動するには、フォークリフトやクレーンを使ってトラックなどに積み下ろしする必要がある。

いくら丈夫な素材とはいえ、吊り紐をクレーンで持ち上げている最中に、袋がビリっと破れたり、吊り紐がが切れて袋が落ちて中身が散乱したりしたら大変だ。

そんなことは絶対に起きてほしくない。

除染は、トン袋の耐用年数との時間の戦いでもあるのだ。

富岡第一中学校はオリンピックを目指すバドミントン選手を育成するため、中高一貫で活動してきたことで有名な学校だ。全国から児童生徒を受け入れてきた。現在猪苗代町で活動を続けている。

●TEXT+PHOTO:井上良太(ライター)