おいしい牡蠣を丹精込めて! 石巻市狐崎浜

ぼく牡蠣の赤ちゃん。帆立貝の貝殻の上で元気に少しずつ育ってます。

今年もそろそろ牡蠣のシーズンは終わり。ちょっと残念ですね。

でもみなさん、シーズンが終わった後、牡蠣養殖の漁師さんたちが何をしているかご存知ですか?

雲丹を獲ったり、刺し網や定置網で魚を獲ったり。世界三大漁場といわれる三陸のことですから、年間通してもちろんたくさんの種類の漁もしています。でも、いちばん忙しいのは牡蠣のケア。収穫時期ではない約半年間に、どれだけの手を掛けたかによって、牡蠣の出来は大きく変わって来るというのです。

おいしい牡蠣を食べなれている宮城県の人に言わせても、ちょっとスペシャルな牡蠣とされる狐崎浜。浜の復活に心血を注ぐ狐崎復興漁業部の管野清也さんに、

「牡蠣づくりのABC」を教えてもらいました。

今回はその第一弾。牡蠣がどうやって養殖されるのか、ざっくりご紹介します。

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ここは牡蠣の赤ちゃんのゆりかごです。
しかし、このゆりかご、半端じゃないほどスパルタなんです。

去年の7月の産卵期に、帆立貝の殻に着いた牡蠣の種(赤ちゃん)を、丹念に育てるのがこの場所。

波が静かな湾の奥につくられた、鉄パイプの棚ですやすや健やかに育っています…。

と思ったら管野さんの口から驚くべき言葉が!

「今みたいに引き潮の時には、完全に海から外に上がるようにしている。この時期はあんまり大きく育ってほしくないんだな」

わざわざ牡蠣の赤ちゃんに試練を与えているというのです。

理由は、成長しすぎると次の段階で「落ちちゃう」から。落ちるってどこから何が?!

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ちょっと海藻で見えにくいですが、さっきの牡蠣の赤ちゃんが1年後にはこんなに成長するんです。

湾の奥の静かな入り江のゆりかご(ただしスパルタ)から、一人前の牡蠣に成長するために場所を移されたのがここの場所の牡蠣。

さっきは針金で束ねられていた帆立の貝殻をばらして、一枚ずつロープに付けて牡蠣を育てています。

牡蠣は帆立貝の貝殻から外に向かってはみ出していくように、どんどん大きくなります。大きくなるのはいいことなんですが、大きくなりすぎると困ったことも。

波で養殖棚が上下に揺れる時の抵抗で、せっかく育った牡蠣が海の中に落ちてしまうのです。引き揚げた牡蠣が簡単に取れてしまう様子はショッキング。せっかく育てたものが、ちょっとしたことで無になってしまうのです。

大きく美味しく育ってほしいことはもちろんです。
でもひ弱に育ったり、育ちすぎて落ちてしまったのでは困ってしまう。
絶妙な頃合いを見定めながら育てていくのが、狐崎の牡蠣養殖なのです。

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浮き樽が沈んでいるように見えるのは気のせい?
いや違うよ。

牡蠣の養殖棚のまわりを船外機ボートで走り回りながら、半年前に見せてもらった時と比べて、浮き樽がずいぶん沈んでいるように思えたので管野さんに質問すると、

「うん、沈んでるよ。牡蠣が成長するから樽が沈むんだ。このままにしていると樽が壊れて、棚がどんどん沈んでしまうから手を打たないとね」

ということで、いったん狐崎浜の港に戻り、作業船に乗り換えて杉刈の沖の養殖場に連れて行ってもらうことになりました。

ビーチクリーンにも行った杉刈の沖合

こちらが作業用の漁船。船外機のボートじゃできない作業が待っています。

行き先は杉刈沖。3月9日~10日にビーチクリーンに行った、ひみつのビーチの沖合です。

牡蠣を吊るした太い綱を船のウインチで持ち上げて、もう一本ロープを掛けて綱を平行にしておいて、専用のサスマタのような道具でロープに着いた海藻などをお掃除。そこに浮きダルを追加してしっかり括りつける。

牡蠣棚の綱は2本立てだから、浮き樽を1個追加するごとに、上の手順を2度繰り返す。

「牡蠣がたくさん落ちてしまうと、逆に浮きあがりすぎることもあるんだ」

そんな時には?

「浮き樽を減らす」

だから、しっかり固定できて、しかもほどけやすい結び方で樽を付けていくのです。

養殖棚の調整はせっかくの牡蠣を落としてしまわないために重要です。海が荒れそうだという時には前もって調整したりすることもあります。

「毎日ってことじゃないけどね、棚の高さは頻繁に調整しているんだよ」

収獲シーズン以外は、海に入れっぱなしで牡蠣を育てているわけではないのです。

今回教えてもらったのは、あくまでも日常的なメンテナンス。牡蠣の種を付ける仕事や、種付け用の帆立貝をつくる仕事、生育状態に合わせて、出荷前には養殖棚を沖合に移動させる仕事など、牡蠣養殖は年間通しての作業なのです。

でも、海の仕事ならではの「おいしい」こともありますよ。写真の管野さんが何をしているかというと――。

浮き樽に自然と生えていたワカメを収穫しているところなのです。

「これ、お昼ご飯にしよう!」

さらに、ビーチクリーンした杉刈の岸辺近くまで船を寄せて、小ぶりのブイにつながれたロープを手繰ると、

なんということでしょう!
そこには色も鮮やかに成長したメカブ!
これぞ海の幸といった美しさで光を受けて輝いていました。

一仕事終えて、港に戻り、収獲してきたワカメを水揚げして、自分たちの手で調理。

海での仕事がてらに取ってきた新鮮というほかない食材でお昼を作る。なんて豊かで贅沢な時間でしょう!

メカブはちょっと大きくなりすぎていて固そうだったから、炭酸(重層)を入れて、なんて管野さんのお母さんから漁師料理のいろはも教えてもらえました。ちょっとだけですが。

管野さん、菅野さんのお母さん、たいへんお世話になりました!
お昼ご飯、最高でした。

これからも浜の仕事について、いろいろ教えてください。
次からはちゃんとお手伝いしながら教えてもらうようにします。

またお邪魔します。よろしくお願いいたしまーす!

●TEXT+PHOTO:井上良太(株式会社ジェーピーツーワン)