震災遺物・震災遺構(しんさいいこう)津波石

津波石をご存知ですか。
莫大な津波のエネルギーで海から陸地に打ち上げられたり、元あった場所から移動したりした岩のことです。あり得ない場所に運ばれた岩やコンクリート製品などの重量物は東北の被災地でもたくさん見られました。たとえば――、

福島県いわき市久之浜の海です。震災直後に比べて少なくなりましたが、消波ブロックや岩が打ち上げられています。かつてはさらに大きな何トンもありそうな岩も転がっていました。

宮城県東松島市の野蒜駅近く、鳴瀬第二中学校の校門前に転がる巨大なコンクリートの塊です。

宮城県南三陸町の風景です。手前の御影石も奥のごろっとした岩もかなり大きなものです。とくに奥の二つの岩は土の中から掘り出されたようにも見えます。津波で崖地が壊されて、山の中から落ちてきた岩が、津波の引き波で町に転がり込んだのかもしれません。

被災地ではいまでも驚くような光景に出くわすことがあります。
何気なく通り過ぎてしまいがちな景色でも、「あれはね」と教えてもらうことで、その物がそこにあることがいかに場違いなことなのか、気づかされることが少なくありません。

岩がなぜここにあるのか――。

その理由を想像することで、地震や津波のパワーがどんなものなのか理解が深まるはず。どこかから岩が流されてきて、そこに落ち着くまでの状況を想像してみることで、津波の恐ろしさに近づけるはず。そんな意味で、2013年3月27日に津波石が天然記念物として正式に告示されたのは、津波被害の減災を考える上で意義深いことですね。

天然記念物に指定されたのは「石垣島東海岸の津波石群」。東北から遠く離れた沖縄県の八重山諸島にある震災遺物です。

八重山地方の津波石は、その大きさでも数でも想像をはるかに超えるものです。今回の指定からは外れましたが、下地島の「帯岩」は高さ約12.5m、周囲約60m。Googleマップでもはっきり分かる巨大な岩です。

上のマップに表示されているのは下地島空港ですが、滑走路を越えた西南西方向の海岸近くに「帯石」があります。拡大して探してみてください。空港外周道路から海の方へ路地を入って行った先、手前に鳥居が建てられた大岩。世界最大級の津波石なので、きっとすぐに見つかるでしょう。

この大岩を陸地まで押し上げた津波は、1771年4月24日(明和8年3月10日)に発生した八重山地震とされます。資料が乏しいため、マグニチュードや津波の高さなどは研究者によって諸説がありますが、津波当時の記録によると、現在の石垣市の宮良村で84.8mの津波高さだったと記されています。

この津波高さは世界でも最大級のもの。20階建てのビルを越えるほどの超巨大津波です。そこまでの巨大な津波はあり得ないという人も少なくありません。

しかし、概算で5600t以上(地上部分の寸法を15×15×12.5、比重2.0と仮定して算出)の巨大な岩が、海抜10メートルの崖の上に運ばれたのですから、あり得ないとは言えないようにも感じます。

天然記念物に指定された南の海の津波石は、はからずも「想定外」についても考えさせてくれる存在なのです。

帯岩は伊良部島と合体しているかのような下地島の西海岸。すぐ近くには、海につながる不思議な洞窟としてダイバーに人気の通り池も。南国の離島リゾートを楽しみながら、いにしえにこの地を襲った地震や津波のことを考えてみる。うん、大人なリゾートの味わい方かもしれませんね。

●TEXT+PHOTO:井上良太(株式会社ジェーピーツーワン)