竹富島、昼の顔と夜の顔【旅レポ】

 西表島の宿で長期的に働いていたことがあった。多忙を極めたGWを乗り越え、ほぼまる1ヶ月休みなしで働いた僕は、まとめて3日の連休をもらうことになった。うち、2日間を黒島で過ごし、最終日の3日目は西表島からも近い竹富島を訪れた。

短時間でサクッと楽しめる竹富島

 八重山諸島には、西表島や竹富島のほかにもいくつかの島々があり、それらへ向かう船のほとんどが石垣島から発着している。西表島で働く僕の場合、いったん石垣島へ行き、そこから他の島々をまわることになる。 特に竹富島への船は本数が多く、合計すれば1日あたり30往復ほどにもなるのだ。離島としては圧倒的な多さだが、それはそれだけ日々多くの人々が訪れているということにもなる。賑やかなのは良いことだが、仕事の疲れが残っている僕としては、賑やかすぎるのもどうかというところだ。

 ただ、今日は3連休の最終日。明日からまた宿での仕事が始まるのだ。石垣島から他の島へ行くのは良いが、最終便で西表島へ戻る必要がある。短時間でサクッと楽しめる島が良い。その点、竹富島の面積は5.42㎢とあまり大きくない(東京ドーム49個分らしい)。一方、竹富島以外の島は船の本数はやや少なく、それでいて面積も広めだった。これでは日帰りは厳しいか・・・。 どうしたものかと迷っているうち、決め手に欠いたまま時間だけが過ぎてしまい、なんとなく竹富島を訪れてしまった。

 「半日もあれば遊べる島らしいし、ぷらっと島をまわって西表まで帰ろう。」 16時15分に竹富島を出る船に乗って石垣島に戻れば、西表島への最終便に間に合うことを確認し、僕は竹富島で遊ぶことを決めた。

休日最終日

(朝)石垣島 → 竹富島 → 石垣島 → 西表島(最終便)

あえて言えば「賑やかなのに静か」

 港から続く道は、歩いているうちにアスファルトから白砂へと変わる。石垣と木々に囲まれた道をしばらく行くと、テレビやガイドブックですっかりお馴染みの赤瓦の古民家群が見えてきた。

 矛盾しているようだが、あえて言えば「竹富島は賑やかなのに静か」だった。 郵便局と言えばおカタいイメージがあったのに、竹富島の郵便局ときたら石垣に囲まれ、赤瓦屋根を乗せた竹富島仕様。屋根には可愛らしい小さなシーサーがちょこっと座っているものだから、僕はすっかり見とれてしまっていた。そんなところでぼーっとしていると、これまた島ではお馴染みの水牛車が僕を横切っていく。恐らく旅行会社のツアーご一行だろうか、熟年夫婦を多く載せ、牛舎の先頭では三線をもったオジイが民謡を歌っていた。

 それ自体は賑わっているのだが、それが通り過ぎていくと、全ての音が一斉に鳴りやむかのように静かになる時もあった。しかしそうかと思えば、海の音だったり、いつもより近くに感じる鳥だったりが騒ぎはじめたりもする。 「これはこれで悪くないか」

と思うようになり、僕は自転車を借りてぷらぷらと島を見て回ることにした。 

 その後、僕はひと通り景色を楽しんだ。なごみの搭から島の景色を眺め、島の売店ではアイスキャンデーを買った。お土産屋さんでは八重山ミンサー調のブレスレットを購入して、なんとなく足に巻いてみた。淡々と過ごしているが、宿で働く日々が規則正しく、それでいて忙しかったので、一人で思うままに行動するのが気分に合っていたのかも知れない。 こうして適当に歩いていると、コンドイビーチに行きついた。深い青色ながら底の白砂が透けて見えるほどの透明度!・・・と、僕が感動したように、他の人々もきっとこのビーチが気に入ったのだろう。12時という昼食時なのに、ビーチはかなり混んでいた。

 最初は「さぁ、軽く泳ぐか!」と、気合が入っていたものの、このワイワイしたビーチの中で、一人遊泳するのはどこかためらってしまった。仕方がないので木陰で涼むことに。

本当に竹富島を味わい尽くすなら、お昼だけでは足りない

 目が覚めると、相変わらず美しい海が目の前に広がっていた。深い青だった海はうっすら赤みを帯び始め、西日が差しつつある。人の気配も無く、とても静かだ。

 ん・・・人の気配もない?時刻は・・・18時過ぎ!えっ、えっ、えっ! 僕は西表島に戻るどころか、竹富島から石垣島へ戻る最終便の船にすら乗り遅れてしまった!!!

 西表島の宿に一報を入れた僕は、島内の高那旅館に泊まることに決めた。お昼は日帰り旅行者で賑わっていた竹富島も、夜はまるで別の島に思えるほど静かだ。旅館にいてもやることが無いので、散歩をする。

 この日は満月。月明かりに照らされた白砂の通り道は、街灯が無いのに明るい。集落内の飲食店からは暖かい光が漏れていて、その日竹富島に泊まるであろう人々の酒を楽しむ声が聞こえてくる。しかし、賑やかな声が聞こえるのは束の間で、集落はやはり静かだ。 僕はふたたびコンドイビーチを訪れた。あんなに賑わっていた海もまたしんとしていて、波の音だけがざわざわと聞こえる。満月は抜群に明るいのに、星空もよく見えた。それだけでなく、海の向こうには西表島すらもくっきりと見えていた。島と島との距離は10km程度である。歩けるならば、その日のうちに帰れるのに・・・!!

 しかし、ひとつだけわかったことがある。竹富島を味わい尽くすにはお昼だけでは足りないということだ。僕は日中たくさん訪れる日帰り観光客が見ていないものを見た。そう思うと、なんだかこの夜が贅沢に思えて仕方がなかった。

 翌朝、始発の船を乗り継ぎ西表島に戻った僕は、しっかり叱られた。