ロンドンオリンピック開催日に先立ち、男子・女子サッカーの試合が始まりました。今回は7月31日に行われたなでしこジャパンのグループリーグ第三戦。日本VS南アフリカの試合を振り返ってみたいと思います!
2位通過の指令が下されていた、選手の微妙なモチベーション
なでしこジャパンは予選2試合を終えた時点で1勝1分の勝ち点4。南アフリカに勝てば1位通過の可能性が高くなり、引分なら2位通過が確定するという条件でした。佐々木監督の思惑は引分狙いで2位通過すること。1位で通過した場合、五輪直前の壮行試合で敗北していたフランスかアメリカとの対戦が濃厚です。
また、カーディフからグラスゴーに向けて8時間かけて移動する必要があり、選手のコンディションと対戦相手の条件を考慮した場合、カーディフに残ってブラジルかイギリスと対戦した方が有利であると判断したのでしょう。最低目標であるメダル獲得に至るには、準々決勝に勝たなければ意味がありません。試合前に佐々木監督の口から「試合展開によっては引分でもいい」という指示が下されていました。この言葉が日本の選手に微妙なモチベーションの変化をもたらすことになります。
スウェーデン戦から7名のメンバーを変更、主力を温存させる
スウェーデン戦から7人のスタメンを入れ替えた日本。システムはいつもの4-4-2。左サイドバックの鮫島に代わって矢野を入れ、ダブルボランチは澤と阪口ではなく田中と宮間がコンビを組みました。サイドハーフは左の川澄に変えて岩淵を投入し、右には宮間ではなく高瀬を起用します。そしてツートップは左に丸山、右に安藤を据えるなど、サブメンバーを中心とした新しい布陣で挑みました。佐々木監督の狙いは主力の体力を温存させて、控え組をオリンピックのピッチに慣れさせるというものです。
守備に難のある南アフリカを相手に攻撃がかみ合わない
組織的な守備を苦手とする南アフリカはここまで2試合で7失点を喫しています。センターバックは対人プレーに強いものの、マークの受け渡しができず、ボールサイドに人が集まってしまう習性があります。速いパス回しからの崩しを得意とする日本には格好の相手だと予想されていました。しかし、ゲーム序盤からなでしこのパスは全く繋がりません。ぶつけ本番で挑んだ新布陣は選手間の息が合わず、コンビネーションを生み出せないのです。
1人がボールを持っても2人目3人目の動き出しが見られず、パスコースを作り出せない日本。ボールポゼッション率は南アフリカを圧倒的に上回りますが、全体的にパス回しが遅く、効果的な縦パスも入らない為に前線で選手が孤立してしまいゲームが動きません。澤と阪口がボランチにいないだけでここまでパスが繋がらないのか?と驚くほどでした。
丸山と岩淵が鋭いドリブル突破でチャンスを作りますが、ゴール前に飛び込んでくる選手が少なく決定的なシーンには至りません。丸山、岩淵、高瀬の単独突破は精度が高いので1人目2人目までは個人で振り切れますが、味方のサポートが遅い為にゴール前で守備網に引っかかってしまいます。意図的に手を抜いているように見えるほど、日本の選手は走ろうとしないのです。個人で勝っても組織で負けるという、らしくない展開が続いて前半終了。
投入した川澄と阪口には「引分の指示」メダル獲得に対する執念か?
後半12分、日本は攻撃のリズムを変える為にサイドハーフの岩淵に変えて川澄を投入。川澄が入ったことで左サイドにパスの起点が生まれ、なでしこらしい速いパス回しを取り戻した日本。ワンタッチ、ツータッチのテンポの良いパス回しでゲームを組み立てますが、肝心のシュートには至りません。佐々木監督は川澄に対して「インサイドに切り込んでシュートを打つな」と指示。得点を奪うことを拒否していたのです。その思惑は後半32分に投入された阪口のプレーにも表れていました。阪口はボールを持っても縦に急がず、横パスやバックパスを繰り返して前に出そうという意思が見られません。試合終盤はバックラインでボールを回して時間を稼ぎ、そのままタイプアップ。佐々木監督の狙い通り、Fグループを2位で通過した日本は準々決勝でブラジルとの対戦が決まり、メダルマッチに向けて万全の準備を整えたように思えます。
試合内容は散々だが、サブメンバーに光明あり
明らかに引分を狙いにいった日本。勝とうする思いはチームから微塵も感じられませんでした。しかし、この試合を決勝トーナメントに向けたテストマッチと考えれば収穫はあります。先発した7人のサブメンバーはチームとしては機能していませんでしたが、個人として能力の高さをアピールしてくれました。
丸山は完全復活、ジョーカーとして期待が持てる
フォワードとして5年ぶりに先発出場した丸山は怪我明けでコンディションが心配されましたが、自慢の突破力は健在でした。ボールを持って前を向くと安易なパスを出さずにドリブルを選択。バイタルエリアでディフェンスのプレッシャーを受けながらも卓越したテクニックとスピードで守備網をすり抜けていきます。ディフェンスを背負っても正確な技術でボールを収めてポストプレーも安定していました。
ペナルティエリアでは足元でボールを納めると見せかけて高速でターン、一瞬のスピードでディフェンスを振り切ってピンポイントクロスを送るなど得意のウイングプレーで何度もチャンスを生み出していました。オフザボールの質も高く、ディフェンスラインとの駆け引きからオフサイドラインを抜け出して一気にシュートに持ち込むなど得点の匂いを感じさせるプレーを見せていました。決勝トーナメントではここ一番でジョーカー的な役割を期待できると思います。
フィジカルを生かした高瀬の突破力は驚異
右サイドハーフに入った高瀬は特徴であるフィジカルの強さを世界に見せつけました。高さと強さを持った南アフリカの屈強なディフェンダーとマッチアップしても当たり負けすることは皆無。サイドライン際からインサイドに向かってドリブルをしかけると、ディフェンス2人に囲まれもボールを失うことなく強引にミドルシュートを打ってゴールに迫りました。ペナルティエリア内でも対人への強さを見せ、空中戦での競り合いも負けていません。
問題なのはサイドハーフというポジションに入ってしまったこと。抜群のキープ力に加えて破壊力あるシュート、ヘディングにも強さを見せる高瀬をどうして中盤で使うのか監督の意図が筆者には理解できません。この試合でフォワードに起用された安藤はテクニックとスピードを併せ持った優れたアタッカーですが、シュート力に難があり何年も代表で得点していません。安藤はキープ力とパスセンスにも優れおり運動量も多くて戦術眼の高いプレーヤー。シンプルかつスピーディーなパス回しを身上とする日本の中盤に、安藤のプレースタイルはフィットすると思います。
岩淵のドリブルは飛び道具、彼女にボールを集めて欲しい
左サイドハーフで先発した岩淵もドリブル突破に切れを持っていました。中盤でのボールの受けた方が抜群に上手いので前を向いて直ぐにドリブルに入る能力があります。南アフリカのディフェンダーはスピードがありますが、速い上にタッチの細かい岩淵のテクニカルなドリブル突破を止めるのに苦労していました。オフザボールの動きも鋭く、中盤から何度もペナルティエリアに飛び出してディフェンスの裏を取りました。
1年前のワールドカップでは突破のチャンスがあってもアタックしないなど、メンタルの弱さが指摘されていましたが、この大会では自信を持ってプレーしているように見えます。決勝トーナメントではジョーカー的な役割を求められると思いますが、調子の良い岩淵にボールを集めれば突破の糸口を掴むことができるでしょう。
心配されたサイドバックのバックアップには矢野
なでしこジャパンは近賀と鮫島という両サイドバックのオーバーラップが攻撃の鍵を握っていましたが、今大会はサイドバックのバックアップについて危惧される声も上がっていました。この試合では鮫島に代わって矢野が左サイドバックとして先発出場。守備では左サイドを無難に抑え、攻撃では積極的にオーバーラップをしかけていました。
スピードを生かした縦へのドリブルはありませんが、サイドライン際での一対一ではトリッキーなプレーでディフェンダーをかわすなど、攻撃センスの高さを見せました。精度の高いパスでもチャンスを作っており、ディフェンスラインとゴールキーパーの間に絶妙のアーリークロスを入れるなど、多くの見せ場を作りました。
総括
決勝トーナメント一回戦ではブラジルと激突することが決まった日本。3試合でわずか2得点という深刻な得点力不足が心配されます。澤や宮間らの主力選手の調子も上がらないなか、これからの戦いでどのように巻き返しを図るのか佐々木監督の手腕に注目したいところです。