羽幌町と萌えるバス会社「沿岸バス」【島と○○】

札幌~羽幌間を結ぶ「特急はぼろ号」

 北海道苫前郡羽幌町に属する離島・天売島(てうりとう)、焼尻島(やぎしりとう)をそれぞれご存知でしょうか。2つの島は5km程度しか離れていません。しかし、それぞれが味わい深く、別の顔を持っています。 さて、そんな両島へのアクセスですが、その羽幌町からフェリーに乗ります。では、その羽幌町がどこかと申しますと、北海道北部の西海岸沿い。鉄道や空路は通っておらず、札幌や旭川などの主要都市から路線バスでのみアクセスが可能なのです。(札幌から羽幌町への地図)

 ・・・と、ここまではどこにでもある観光地。しかし、ここで注目して頂きたいのは、羽幌町への唯一の交通手段とも言えるこの路線バスを運行する「沿岸バス株式会社」。同社は、他にはない強烈な個性を放っており、異色の存在なのです。

天売島は海の幸と海鳥の楽園。特にウニの味は日本一と言われ、7月には「天売ウニまつり」が開催されるほどです。また、海鳥の繁殖地でもあることから、初夏のピーク時には百万羽にも及ぶ海鳥を観察出来ます。

焼尻島は、めん羊牧場と原生林の島。イギリスのサフォーク州が原産のめん羊は臭みがなく、フランス料理の高級食材として出荷されていますが、島では格安で食べることができます。島内は、3分の1が天然記念物の原生林に恵まれ、低い標高ながら高山植物が楽しめます。

異色の地方路線バス会社!

 沿岸バス株式会社との初めての出会いは、天売島・焼尻島への旅行計画を立てていたとき。必然的にこの路線バスを使用することになるので、ホームページで情報を調べようとすると・・・

沿岸バス株式会社公式HPのトップページ
沿岸バス株式会社の公式ツイッター

 ページ上を華やかに彩る美少女(のイラスト)たち。一瞬訪れるホームページを間違えたかと思いましたが、あくまで普通の地方路線バス会社だったのです。 僕が乗りたかったのは、札幌と羽幌町を結ぶ特急はぼろ号。各路線のページへ飛べば、どこにでもあるバスの情報が載っていただけにほっとしました。が、それだけに「萌え」要素満載のトップページが気になります。一体どんな会社なのでしょうか。

 その歴史を紐解いていくと、 

1926年…瀧川五郎吉が羽幌~天塩間で乗合旅客運送事業開始

1952年…戦前より運送事業を行っていた道北乗合自動車より路線を譲受、沿岸バス株式会社設立

1987年…国鉄羽幌線の廃止に伴い羽幌町唯一の公共交通となる

2005年…2ちゃんねるユーザーを対象としたバスツアーを企画・実施
    …2ちゃんねるの管理人、西村博之監修(当時)のオリジナル「増毛(ましけ)」チョロQを発売。

2009年 …増毛町~豊富町のバス路線が乗り放題になる「萌えっ子フリーきっぷ」を発売

とあります。こう言うのもなんですが、つい最近までは地方の足を担うおカタい路線バス会社という印象を受けました。ところが、見てのとおり、がらっと雰囲気が変わっているのが2005年。このあたりから「2ちゃんねる」や「萌え」といった昭和の時代には馴染みの無かった言葉が登場し始めます。発端となったのが2005年の「“特殊” バスツアー」。沿岸バスのホームページにはそれについて記されていました。

「沿岸バスの “特殊” ツアー」
 2005年春。インターネット掲示板「2ちゃんねる」のスレッド上に沿岸バスを利用した日本海オロロンライン縦断ツアーの要望が浮上しました。
 提案したのは名前も顔もわからない匿名の「名無しさん」でした。その声はスレッド内に拡がりを見せ、やがて沿岸バスの企画担当者を動かしました。
 札幌発着で1泊2日22,000円。予算と時間の許す範囲の中で行程を作成します。行ってみたいところ、食べてみたいものをお寄せください、と呼びかけたところ予想を上回る反響がありました。
(引用:沿岸バス株式会社より)

とあるように、バスツアーの企画担当である社員さんが、スレッドにてコミュニケーションを図ったのがきっかけとなったようです。その行き先も産業遺産「羽幌炭鉱」や、秘境駅「小幌駅」といった、どこかマニアックな内容。異色の内容がファンのハートを掴んだようで、瞬く間に “特殊” ツアーは同社の看板商品として人気を博したとのことです。

 異色であり、特殊な同社のスタンスは多方面に引き継がれ、いつしか美少女イラストをあしらった萌えキャラが登場するようになりました。同社が毎年販売している「萌えっ子フリー切符」は、期間限定で同社の路線バスが乗り放題になる企画チケット。これは「担当者の趣味」だそう。

侮れない“担当者”

担当者の趣味がそのまま形となった「萌えっ子フリーきっぷ」

 お気づきだと思いますが、2ちゃんねるを参考にツアーを企画したのは沿岸バス社員である“担当者”とありました。また、萌えキャラを前面に押し出した企画の数々も「“担当者”の趣味」だそうです。2005年ごろから登場した異色の企画が人気となったことで、まさに会社の雰囲気が変わったと言えるでしょう。趣味がそのまま社風を変えてしまったわけですから、かなりのキレ者な気がしてなりません。

 “特殊” ツアーや企画チケットなど継続的に行われていることから、おそらく会社としてもある程度の手応えを得ているはずです。かつて、「経営状況が厳しい」と言われていた同社だけに、このあたりの成果も気になるところ。 また、唯一無二の企画を次々と発信できる、良い意味でのユルさもなんだか素敵です。ホームページを隅々見ていると、歴代の萌えっ子たち一人一人に詳細なキャラ設定があり、思わず笑ってしまいました。なかなか芸が細かいです。沿岸バスの“担当者”さん。

 さて、僕はそんな同社の特急はぼろ号に乗り、札幌~羽幌間を移動しました。ホームページの印象から、どんなバスなんだと想像していましたが、ごくごく普通の路線バスです。(当然ですが。笑)

 ただ、羽幌町、天売・焼尻島に通じる唯一の交通機関だけに、活発であってほしいなぁと願ってしまいます。今後は、どういった企画を見せてくれるのか、“担当者”さんの手腕に期待したいところです!

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