【“本当”はどこにある】想定外の津波被害はウソだった

原発はM9.0の巨大地震には耐えたが想定外の津波によって電源喪失に陥り事故に至った――。昨年の福島第1原発事故直後から繰り返されてきた説明がウソだったことが分かった。

津波で全電源喪失は想定されていたらしい

産経新聞≪津波で電源喪失 想定していた≫(2012年5月16日)によると、

▼経済産業省原子力安全・保安院と東京電力などが参加した平成18年の勉強会で、福島第1原発が14メートルの津波に襲われた場合、電源喪失する可能性があるとの文書をまとめていた。

▼勉強会では、建屋内に浸水し、電源設備や非常用ディーゼル発電機などが被害を受け電源喪失する可能性があるとして、18年8月に文書をまとめていた。

▼保安院は「当時の担当者は『対策をとるべきだ』と東電に口頭指示した」と説明していた。

▼東電は「海水ポンプの安全性向上の指示はあったが、電源喪失対策の指示はなかった」

▼さらに東電は、「建屋まで津波がくれば当然浸水するが、そうした津波が本当に起こり得るのか十分な議論が必要だった」と説明した。

保安院と東電などが参加した勉強会で津波による全電源喪失は想定されていた。文書にまでまとめられていた。保安院は東電に対策をとるよう「口頭で」伝えていた。東電は電源喪失対策の指示はなかったとする。挙句のはては「十分な議論が必要だった」と、まるで高所からの物言いだ。

大きなウソが露呈した後、なおも責任のなすりつけ合いを行っている様子が描かれた記事だった。

専門性や実戦能力を誇示するくらいなら…

前日の産経新聞は、国会の事故調査委員会での発言として、「専門性や実践能力は電力会社の方がある」というコトバを紹介している。

記事ではこの発言の主が弁護士の野村修也委員なのか、参考人の東電・勝俣恒久会長なのか明示していないが、勝俣恒久会長によるものと思われる。

専門性・実践能力のあると自負する東電がなぜ、14メートルの津波で全電源喪失する「想定」への対策をとらなかったのか。理解不明だ。分かるのは大きなウソがバレてしまったということだけ。

参考記事:津波で電源喪失 想定していた(産経新聞 2012年5月16日)
参考記事:18年には電源喪失リスク指摘(産経新聞 2012年5月15日)

文●井上良太