2017年5月8日昼ごろに発生した釜石市平田(へいた)地区の山林火災がなかなか鎮火できずにいる。9日14時現在、釜石市内にはヘリコプターの音が鳴り響き、時折、木が焦げる臭いが流れ込む。町なかが煙でかすんでいるように見えることもある。防災無線が山林火災について情報を伝えているが、音が建物にこだましている上、上空のヘリコプターの音のせいもあって、ほとんど聞き取れない。
山林火災が発生しているのは、平田地区の南側の尾崎半島。国道45号線が内陸に整備されたいまでは、半島沿いの道を利用する人も少ない場所だが、尾崎白浜、佐須といった集落がある。
平田地区から海沿いの峠道を上っていった途中で、山火事の現場を遠望すると、自衛隊の大型ヘリコプターが何機も飛来して、吊り下げた赤いバケットから水を投下している様子が見られた。
火災が発生した8日は岩手県全体で強風が吹き、県下では風速28m超の台風並みの風を記録した地点もあった。火災発生現場は車が入れる道路のない場所で、8日には県の防災ヘリ1機のほか、救援要請を受けた自衛隊のヘリコプター2機の合計3機が上空からの消火を試みたが、強風のため作業は難航し、消火活動は午後4時過ぎからのわずかな時間に限られたという。
地元のラジオ局の報道によると、9日は午前4時半過ぎから消火活動を再開。県の防災ヘリのほか青森県と秋田県の防災ヘリ、自衛隊の大型ヘリ10機が参加。午後には14機体制での消火活動が行われているという。
火災現場上空には、赤いバケットを吊り下げたヘリが次々とやってきて、バケットから水を投下していく。ヘリの機体が見えないほどの煙の中、投下される水だけが見える様子からも、消火活動の大変さが分かる。
自衛隊の大型ヘリコプターが投下している水はどこから来ているのか?
釜石湾の平田漁港の沖合では、空になったバケットを曳いて高速で飛んできた大型ヘリが、海の上にバケットを落として海水を掬い取っている様子が見られた。バケットの口の部分には重りが着いているようで、海面に落ちると傾いて海水を汲み取れる仕組みになっている。釣りで使うバケツのような構造なのかもしれない。それでもうまく行かないこともあるようで、海面ギリギリの高さまで高度を下げて、何度か汲み取りをやり直すヘリもあった。
海水を汲むのも火災現場で炎の上に投下するのも、危険を伴う大変な作業のようだ。
平田地区と釜石市内の間の峠近くにあるシーガリアマリンホテルの駐車場からは、火災現場で消火活動を行うヘリの様子がよく見えた。
駐車場から見守っているホテルの方は、「早朝には黒い煙が何筋も見えたが、いまでは白い煙ばかりになっている。自衛隊ヘリの活躍で、なんとか鎮火してほしい」と、山火事を見つめながら話していた。
しかし、そんな話しをしている矢先に、ヘリの1機がずいぶん手前の山に水を落とした。14機体制での消火活動にも関わらず、延焼範囲は広がっているのかもしれない。
火災現場の周辺は、おそらく戦後になってから杉の植林が行われた場所らしい。約2週間前、付近を通りかかったとき、読めないほど錆びた山火事防止を呼びかける看板を見かけた。
人工林ばかりではなく、古くからの自然の杉が現存する場所でもある。
山林火災の現場は、釜石市の唐丹地区と平田地区を分ける境界の半島。2つの集落の境は、江戸時代には伊達藩と南部藩の境界でもあったことから、峠のスギは境杉とも呼ばれてきた老木で、樹齢は300年以上といわれている。
この杉の木も山火事の延焼に巻き込まれてしまうかもしれない。
火災にさらされている尾崎半島には、釜石市で多くの人たちに大切にされてきた尾崎神社の御神体が祀られる奥の院がある。釜石市の中心地近くにある尾崎神社本殿は里宮で、その本宮は釜石湾の対岸の尾崎白浜地区に、拝殿である奥宮は青出浜、奥の院はさらに奥宮から尾崎半島の先端に向けて1.5kmほどの場所にある。
地元のラジオ放送によると、奥宮と奥の院は延焼の危険があったが、消防隊が船で小型ポンプやホースなどの機材を運び込んで消火に当たり、神社を守ったそうだ。
毎年10月の釜石祭りで、港から船に乗って奥の院に還御していく御神体を、町々の山車や虎舞などが総出で見送る姿を思い出した。
奥の院は東日本大震災で玉垣が壊れるなどの被害をこうむり、2016年2月にようやく修復なった場所でもある。
人的被害や文化財の被害を生じることなく、この山火事が鎮火してくれることを祈るばかりだ。
市内では防災無線の放送が流れている。ところどころ聞き取れた部分をつなぎ合わせると、尾崎白浜地区の林野火災は現在も延焼中で、風向きによって市内にも煙が流れ込んでいるので、外出や車の運転には十分注意してほしいという内容のようだ。
町なかを歩く人たちは、時折空を見上げて、爆音を上げて飛んでいくヘリコプターを見送っている。たとえば信号待ちとか、道のそこかしこで山火事のことを心配する話しが声が聞かれる。
一刻も早い鎮火を、消火活動に当たる人たちの安全を祈ろう。
あと数時間もすれば、山火事発生から2回目の夜を迎えることになる。