【岩泉・台風10号被害】見たこともない謎の物体

被災物が集積されていた場所から橋を渡って中里の集落に入って、ふたたび言葉を失った。橋を渡るとそこは広々とした土地。明らかに農地だった場所なのだが、荒涼たる不毛の平面。そして、その広がりの片隅に、見たこともない巨大な物体が目に入った。これは何なのか?

一体これは何だというのか。写真で見ればビニールハウスの残骸なのだと分かるかもしれない。しかし、その場でこの光景を目にしたとき、洪水でビニールがはぎ取られ、残った骨組みに洪水で流れて来た様々な物が引っかかった末にできた物体であることを理解するまでに5秒くらいかかった。大型のビニールハウスだから長さは20mくらいはある。枯れ草や被災物が引っかかったことでつくられたこの形が、まるで大きな生物の死骸のように見えたのだ。

辛うじて倒れずにあるハウスの妻の部分には、いちばん上まで枯れ草が絡まっている。つまり台風10号の豪雨で発生した洪水は、ハウスを完全に吞み込む高さだったと分かる。よく見ると絡み付いているのは枯れ草だけではない。ハウスの下の方に大量に引っかかっているのは田んぼから根こそぎはぎ取られたイネのようにも見える。

巨大な生き物の死骸のように見えたのもそのはずだ。これはハウスの骨に枯れ草が絡まったものなんかではなく、お米として実るはずだったイネの残骸であり墓標でもあるのだから。

ハウスの周りには田んぼの土とは思えないひび割れも見える。洪水とともに流れ込んだ土砂が田んぼを埋め尽くし、水害から8カ月を経てひび割れの土地になってしまったのだ。

何もない平らな土地だから農地だったのだということは分かる。しかし、春なのに、田起こしが始まっていなければならない時期なのに、広がっているのは手つかずの荒涼とした平面。それが意味することを考えて、被害の大きさを思う。