このごろ陸前高田では、「栃ヶ沢にできる新しい公営住宅に入居するのよ」という嬉しそうな言葉が仮設住宅などで時々聞かれる。近々入居が始まる予定の「災害公営住宅(陸前高田市栃ヶ沢地区)」は、9階建て2棟合計戸数301戸の大きな復興住宅。その建物は見上げるばかり。壮観というほかない。
震災後に山林を切り開いて造成されたこの高台には、市役所のほか警察や消防、文化ホール、そしてBRTの駅が集中している。新しい陸前高田の中心地のひとつとなるエリアだ。
丘の上にそびえる建物の高さも圧倒的だが、2棟の建物の間につくられた駐車場にも驚かされる。301世帯が入居予定の駐車場の広さは非日常的な印象さえある。とにかく規模が大きいのだ。工事現場に掲示されたパネルには、建物や設備の総工費は約30億円と記されていた。
岩手県内の災害公営住宅として最大規模の集合住宅の完成は、復興に向けての動きが本格化したことを象徴するものでもある。
しかし、入居を楽しみにしている人たちがいる一方、利便性や間取り、そして資金的な問題から入居を断念した人も少なくないという。
高台を切り開いて造成したこのエリアは公共機関が集中的に設置されてはいるものの、買い物の便が良いとは言えない。コンビニエンスストアが1軒、お菓子屋さんが1軒、少し歩けば料理店が数軒ある程度。商業エリアとして計画されているかさ上げされた町の中心部の整備が進むのは、まだ数年先。しかも歩いて行くには坂道もあるし遠すぎる。
間取りは2DKと3DKが中心で、1DKや車いす対応の2DKは多くない。また賃料は県営住宅扱いで世帯の所得によって変動するが、共益費や駐車場代を含めると約8万円になるケースもあるという。(この賃料は見る人によって印象は異なるだろうが、大都市圏とは所得水準が大きく異なることを考慮する必要がある)
約5年に及ぶ仮設住宅での暮らしを続けてきた人たちにとって、新しい公営住宅への入居は希望の第一歩に違いないだろう。しかし同時に、今後の生活がどのようになるのか、まったく不安がないという人は少ないのではないか。
災害公営住宅への入居は決めたものの、子どもたちの家族と同居するまでの仮の住まいと考えている人もいる。もう少し仮設でがんばりながら自主再建を目指すという人もいる。
造成地での住宅建設の本格化や災害公営住宅の完成など、住宅事情の変化によって、人の暮らし方は変わっていく。町のありようも変わっていく。
「災害公営住宅の完成=明るい未来」と短絡的に考えるのは止めておいた方がよさそうだ。