東京電力は毎月末近くに「放射線データの概要」という資料を公表している。
構成は「海水、排水路、地下水」「空間線量率」「空気中の放射性物資」の1カ月の推移をグラフで視覚的に示すページと、過去2年ほどの期間でそれぞれのデータを示すページの2つのパーツをメインとして発表されてきた。サブドレン・地下水ドレンの運用に合わせて海洋排水前(処理後)の一時貯水タンク水の放射能濃度のグラフも追加されている。
この発表資料には、メインとなる3つのパーツに加えて、その時期のトピックが追記されることがある。2016年最初の「放射線データの概要」で紹介されたのは、「構内線量率データのリアルタイム表示について」というページだった。
構内線量率データのリアルタイム表示
「放射線データの概要」は、日々測定されている膨大なデータを概観できるようにグラフで表現されたもので、細かな変動ではなく、全体的な傾向をイメージとして伝えようとする意図が感じられる資料ではあるが、今回の「構内線量率データのリアルタイム表示について」は、事故原発構内で働く多くの作業員の生命と健康に直結する取り組みなので、発表された資料のテキスト部分を引用して紹介する。
敷地内線量率データの表示について
福島第一原子力発電所の構内で働く作用員の方が、実際に作業する現場の線量率を見ることができるよう、現場に線量率モニタを設置し、リアルタイムで値を表示しています。(2015年4月から20台運用、2016年1月より66台追加(計86台))
また、現場に出発する前に作業する場所も含めた構内の線量率をみられるよう、免震重要棟及び入退室管理棟で作業員の方が見やすい場所に大型ディスプレイを設置しました。
今後、連続ダストモニタの測定値についても、順次、大型ディスプレイで表示させていく予定です。(1月現在、8箇所。2月末までに全10箇所を表示予定)
引用元:「構内線量率データのリアルタイム表示について」放射線データの概要 1月分(12月24日~1月27日) |東京電力 平成28年1月28日
「大型ディスプレイの表示イメージ」と「線量計モニタの設置状況」「設置場所」の図も拡大して引用する。
この発表を見てどう思われるだろう?
たしかに悪い話ではない。作業員の安全のために作業場所の空間線量を可視化する。さらに入域の際に必ず通過する場所に大型モニタを設置する。むしろいい話題とも受け取れる。東京電力は作業員のためにこんなに努力をしていると……
しかし、今頃になって? と驚くのは筆者ばかりではないのでは。
福島県下には駅前や学校などさまざまな場所に線量計が設置されている。原発事故の発生後、設置台数がどんどん増えていったのを覚えている。しかし、もっとも放射線の環境が厳しい作業現場である事故原発構内では、「2015年4月から20台運用」というお粗末さだったわけだ。
もちろん作業員は1人ひとりが線量計とガラスバッジを携行し、被曝線量は管理されている。しかし、その場所に行って実際に作業してはじめて「結果としての被曝線量」が分かるという状況だったということになる。
誰もが目にすることができる形でモニタが設置されることで、敷地内のどの辺りで線量が高いかという情報を共有することができる。もちろん急激に線量が上昇する事態が発生した際にも有効だ。
実際に事故原発で作業にあたっている方と話した印象では、多くの人が自分自身のん身を守るために安全にはとくに留意しているように思う。しかし、個々で注意するだけでなく、チーム単位で確認できる体制は、とくに経験の浅い作業員に対する実地での具体的な安全教育にもつながるだろう。
モニタを80数台導入したからとか、大型モニタを設置したからヨシとするのでなく、作業にあたる方々への安全配慮は徹底的に追求していってほしい。