格納容器の調査中に動きが取れなくなって放置されたロボットの姿を、追加投入されたロボットがとらえることに成功した。4月20日、東京電力のホームページで公開された。
調査に投入された「形状変化型ロボット(クローラ)」
これまでの発表によると、東京電力は技術研究組合国際廃炉研究開発機構(IRID)との共同で、4月10日から福島第一原発1号機格納容器内の調査を開始した。
調査に使われたのは、「クローラ調査装置」と呼ばれるロボット。直径10センチ弱の棒状で細い配管を通りぬけ、広い場所ではコの字状に折れ曲がってキャタピラーを使って探査するロボットだ。このロボットを格納容器の配管から格納容器内部に投入し、格納容器内部の様子を調査するというのが今回の調査の目的だった。
使われたロボットについては、国際廃炉研究開発機構(IRID)と、開発を担当した株式会社日立製作所・日立GEニュークリア・エナジー株式会社の共同プレスリリースに詳しく説明されている。
放射線量が高い事故原発内部で活動するためには、ロボットを投入する貫通部はできるだけ小さいほうがいい。しかし、小型のロボットでは踏破性に問題があるため、カメラを搭載した本体の両側にクローラ(キャタピラー)を装備し、関節のように90度曲げることで、小型かつ踏破性の高い探査ロボットを開発したということらしい。
調査の経緯
調査は「X-100B」という貫通部からロボットを投入して、円形の格納容器の周りを反時計回りと時計回りで2回、2機のロボットで行われる予定だったが、4月10日の第一回目の調査で、最初のロボットが走行不能となり回収が断念されていた。
東京電力は、第一回目の調査でも予定の約3分の2の調査範囲を走行し、多くのデータを得られたとしていたが、15日には2つ目のロボットを「X-100B」から投入し、格納容器を時計回りに走行しながら調査を実施した。
さらに、回収不能となっているロボットの状況を、時計回りルートの探査を終えたロボットで調べる試みが18日と19日に行われた。その結果、1つ目のロボットのすぐ近くまで接近して、状況を確認することに成功したという。
1つ目のロボットは、コの字型の走行モードと筒状のモードの中間のような状況で、障害物に引っかかり脱輪していたようだ。CRDレールという、今回の調査の目的場所までは、障害物間の幅が狭く通過できないと判断したと記されている。
残置された1つ目のロボットに加えて、2つ目のロボットも、回収に使う監視カメラが放射線で劣化して使用不能となったため、格納容器内に残置することになった。残地の場所は今後の調査に影響のない場所だという。
人間がつくったのに、もはや人間が近づくことすらできない場所
格納容器は「5重の壁」と呼ばれる核物質を封じ込める機能の4番目に当たるもので、原発建屋の中に設置された巨大な構造物だ。格納容器の中には核燃料が収められていた圧力容器がある。事故原発では融け出した核燃料が鋼鉄製の圧力容器の底を突き破り(メルトスルー)、格納容器の底にたまっていると考えられている。溶け落ちた核燃料や圧力容器などの素材が融け合ったものは、燃料デブリと呼ばれているが、それがどのような状態なのかはおろか、どこに溜まっているのかすら全く分かっていない。
ところが今回のロボットによる探査でも確認されたが、格納容器の内部の放射線量は極めて高い。被曝した人の100%が死亡するとされる「致死線量」は7~10Sv(シーベルト)だが、格納容器内部の空間線量はまさにそれに当たる。この場所に1時間とどまると、ほぼ全員が死亡してしまうことを意味している。
今回のロボット調査は格納容器の地下1階を対象にしたものだったが、地下2階へのアクセスルートが確保できそうだと確認することができたという。
融け落ちた核燃料、燃料デブリがどこにあるのか、どのような存在なのか、今後もこのロボットを追加投入していけば、そう遠くないうちに燃料デブリの姿をカメラにとらえることもできるかもしれない。
しかし、たとえデブリを確認できたとしても、燃料周辺の線量はさらに高いだろう。人間の立ち入りが不可能なのはもちろんのこと、カメラや電子機器が短時間で使い物にならなくなるくらいの高さであることも予想される。
原子力発電所は人間がつくったものだ。それなのに、事故原発には近づくことすらできない場所、ロボットですら壊れてしまう場所がある。これはどういうことなのだろう。
これまでアクセスできなかった場所にロボットによって立ち入っていけたことは大きな前進といえる。しかし同時に、廃炉がいかに困難な事業なのかを示す結果になったことに注目する必要があるだろう。状況はきわめて厳しい。