「世界の野生動物、過去40年で半減 」
先月末、世界三大通信社のひとつ、AFPが伝えた1本の記事のタイトルである。記事を読まずにはいられなかった。
世界自然保護基金(WWF)は30日、世界の3000種余りの脊椎動物の個体数を調査した結果、過去40年で地球人口が2倍近くに増加した一方で、野生動物は半数以下に激減していることが分かったとの報告書を発表した。
(中略)
人類は、成長を上回るスピードで木々を伐採したり、回復可能な個体数以上の魚を乱獲したりすることによって、地球が持続可能なペースの1.5倍の速さで自然資源を消費していると、報告書は強調している。
引用元:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140930-00000008-jij_afp-env
記事に書かれている報告書とは、WWFが発表した2014年版「生きている地球レポート(Living Planet Report)」である。レポートによると、地球上の生物多様性の豊かさを示す「生きている地球指数」が悪化の一途をたどっているという。特に淡水生物の指数の悪化が顕著で76%も減少している。減少の大半は中南米を含む、熱帯や亜熱帯の途上国に起因しているとのことである。WWFは生物の多様性が危機にさらされていると警鐘を鳴らしている。危機の主な要因として、レポートでは次のように述べている。
生物多様性を脅かしている要因となっているのは、環境に配慮の無い開発などによる、野生生物の生息地の消失と劣化。さらに、過剰な漁業や密猟を含む狩猟などです。
「生息地の消失」、「過剰な漁業」、「密猟」などいずれも今に始まったものではないものの、ここ数十年加速しているものもある。
動物たちのすみかである森林の減少
野生動物のすみかのひとつである森林の破壊がものすごい勢いで進んでいる。雑誌・ナショナルジオグラフィックの記事によると、毎年パナマと同じくらいの面積の森林が伐採されているそうである。このペースで行くと100年以内に熱帯雨林が消滅してしまう可能性もあるという。ちなみにWRI(世界資源研究所)によると、世界の原生林は8000年前と比べて8割も失われてしまったそうである。8000年前はちょうど人類が農耕を発達させ集落を形成し始めたころと言われている。
森林破壊の主な要因は商業伐採、農地への転用、非伝統的な焼畑農業などと言われている。焼畑農業は古くから行われてきており、本来は持続可能な農法であったそうだ。しかし、近年、無計画に森を焼き払ってしまう非伝統的な焼畑により森林が失われている。以前、この非伝統的な焼畑農業の問題を取り上げたNHKの特集番組があった。番組では、南米のジャングルが広範囲にわたって煙をあげて燃えている衛星写真を紹介し、熱帯雨林消失の規模の大きさを伝えていた。
森林破壊は人間が想像もつかないことをもたらす可能性もある。今、アフリカを中心にエボラ出血熱がかつてないほど広まっている。エボラ出血熱やエイズなど、近年になって知られるようになった「新興感染症」は、もともと熱帯の森の奥深くにあったものだといわれている。しかし、森林の伐採、開発により人と接することになり、顕在化したとも言われている。
水産資源の乱獲
世界の漁獲量を見てみると、ここ数十年で急激に伸びている。1950年に約2千万トンであったものが、1990年にはその4倍の8千万トンになっている。1990年以降、天然魚の漁獲量は頭打ちになっているものの、かわりに養殖による生産量が急激に増えており、2010年には漁獲量と養殖の生産量を合わせると1億4千万トン以上となっている。
漁獲量急増の原因は、世界の人口増加のほか、経済発展著しい国の消費量の増加、健康志向などの理由により水産資源の需要が増えているためだと言われている。以前は消費と水産資源の再生のバランスがとれていた持続可能な漁業であったものが、現在は乱獲により、水産資源の減少、一部の魚種の絶滅が懸念されている。
野生動物の密猟
WWFのレポートに、生物多様性を脅かしている要因のひとつとして「密猟」が指摘されているの見て、まっさきに思い浮かんだ2枚の写真がある。
1枚は角だけ切り落とされたサイの写真で、もう1枚は象牙目当てに殺されたケニヤの有名な巨大な象の写真である。いずれもインターネットを何気なく見ていた際に
記事と共に載せられていたもので、忘れることができないものだった。下記のWEBサイトに写真と記事があるのでぜひ見てほしい。
「野生生物は、この星の自然環境そのものです」
「生きている地球レポート(Living Planet Report)」を発表したWWFのWEBサイトには、次のようなことが書かれている。
今から半世紀前、WWFが設立された最初のきっかけは、急激な減少を見せていたアフリカの野生生物を保護する活動を行うためでした。なぜ、野生生物を絶滅から守るのか。それは、単に動物がいなくなってしまうからとか、かわいいから、といった理由ではありません。
野生生物は、この星の自然環境そのものです。人間が森林を乱伐したり、海を汚染したり、二酸化炭素を大量放出して地球温暖化を進めたりすると、野生生物は姿を消していきます。時には絶滅してしまうこともありますし、実際に絶滅してしまった例も多くあります。
これは、私たち人間の生活にとっても欠かすことのできない地球の自然が、少しずつ、しかし、確実に失われている証拠なのです
自然環境の破壊がもたらす影響について、様々なことが予想されている。しかし、絶妙なバランスの上に成り立っている自然は、人間では想像がつかないことも多く、失ってから初めて思い知ることがあるのは言うまでもない。人間が自制をきかせて、無秩序な開発、乱獲、過度な資源の使用について抑制していかないと、いつかデッドラインを超えてしまい、人間含めて多くの生物が生きていくことができなくなる星になりかねない。その一線がどこにあるのかはわからないが、WWFの「生きている地球レポート(Living Planet Report)」は1つの警告のようにも思える。
取り返しのつかないラインはいったいどのあたりにあるのだろうかと思うとともに、少しでも無駄を減らす生活を心がける必要性を感じたWWFの報告書であった。
参考WEBサイト
Text:sKenji