9月4日の夕方のニュースでは、日銀総裁の黒田東彦総裁が金融政策決定会合後の会見で次のように述べたと伝えられた。
黒田総裁は、10%への引き上げが予定通り行われない場合は「政府の財政健全化の意志、努力が市場から疑念を持たれる」と指摘。そうなれば「政府・日銀としても対応しようがない」
NHKのニュースではその模様が映像でも流されていたが、たしかに黒田さん、少し言いよどみながらも上記のような発言をしていた。はっきり言って「トンデモ」です。
この4月からの消費税税8%は2013年10月1日の閣議で決定されて実施されたが、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」、要するに消費税引き上げ法では「経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、消費税率引上げの前に、経済状況等を総合的に勘案した上で、消費税率の引上げの停止を含め所要の措置を講ずる」とされている。
来年10月から消費税が10%に引き上げられるかどうかは、経済状況等を総合的に勘案した上で10%に引き上げるかどうかを判断するというのが「予定」なのであって、消費税10%への引き上げが既定の予定として盛り込まれているわけではない。
まして、市場から疑念を持たれるからとにかく10%に引き上げるんだ、なんて話は論外というほかない。8月には同様のことを自民党の新幹事長に就任した谷垣さんも語っていたが、政治家の発言と日銀総裁の発言とでは意味するところが少し違う。
なぜなら、日銀法には次のように明確に記されているからだ。
第一条 日本銀行は、我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うことを目的とする。
(略)
(通貨及び金融の調節の理念)
第二条 日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。
日本銀行は「国民経済の健全な発展に資すること」を旨としているわけだ。その総裁たる黒田さんは、そう責任者であり率先してこの精神を具現化するよう務める義務を負うている。
つまり、消費税8%への引き上げの影響がはっきりした数字として示されていない時点で、「経済状況等を総合的に勘案して」との約束をすっ飛ばして、あたかも10%への引き上げが既定路線であるかのごとき発言を行うなんてことはあってはならない。それはまさに、日銀法の精神に反する行為以外の何ものでもない。
経済系の海外メディアが消費税8%やアベノミクスの失敗を書き立てていることへの反攻なのかもしれないが、国民経済の健全な発展に資するべき日本銀行は、国民経済の実情をしっかり精査した上での施策を行っていただきたいものだ。
そもそも、政府からも省庁からも独立して貨幣の発行と経済の調整を担う立場の責任者が「税制」に関して公式に発言すること自体、ノリを越えることだと考えるのだが、いかがだろうか。
黒田総裁にはご自身の発言について撤回あるいは訂正するチャンスもある(時間は限られているだろうが)と思うから、「日本を壊した中央銀行総裁」との汚名を歴史に記されることのないよう、善処されることをひたすら期待するばかりだ。