あらためてプルトニウムのこと

その発見について解説した記事の締めくくりに、「人類は初めて純粋の核分裂性物質を手にした」と『ATOMICA』(高度情報科学技術研究機構)に記される物質、プルトニウム。

原爆、猛毒、プルサーマルなど様々なキーワードと結びつけて語られ、とかく恐ろしいイメージが纏わりついているプルトニウムについて、改めて調べてみると……。

冥界の王に因んで命名された超ウラン元素

後に天然のアフリカ・ガボンのウラン鉱床の中で、自然に核分裂反応が起きていて、その結果ごく少量のプルトニウムが作られたことが発見されるまで、92番目の元素であるウランは地球上の天然の元素の中でもっとも重たいとされてきた。そして、93番目以降の元素はウランが中性子を取り込むことで人工的に作られる「超ウラン元素」と呼ばれていた。

ウランが天王星(ウラヌス)から名付けられたのに倣って、93番目の元素はネプツニウム(海王星:ネプトゥヌス)、そして94番目に当たる元素は冥王星プルートー(冥界の王、地底世界の王、鉱物の王)に因んでプルトニウムと名付けられる。

燃えないウランが燃えるプルトニウムに

プルサーマルを行っているものを除き普通の原子力発電所では、燃料にはウランが使われている。しかし核分裂するのは天然のウランの中にわずか0.7パーセントしか存在しないウラン-235のみ。原発で使われる燃料は、膨大なエネルギーを使ってウラン-235を3パーセント程度まで濃縮して作られている。

それでも燃料となる3パーセントを除いた約97パーセントは燃えないウラン-238。ところが、原子炉の中では、核分裂によって放出される中性子が燃えないウラン-238に吸収されて、プルトニウム239に核種変換するという反応が一部で起きている!

プルトニウム239は燃えるウラン-235と同じように核分裂する物質だ。しかもウラン-235よりも核分裂しやすい特徴を持っている。

原爆になったウランとプルトニウム

世界で唯一核攻撃による被曝国(核攻撃に限らなければ、核開発を行った国、核実験が行われた土地も被曝地だ)となった日本だが、広島と長崎とで投下された爆弾の種類は異なっていた。

広島に投下された原爆は、わずか0.7パーセントしかないウラン-235を約90パーセントまで濃縮したものを連鎖反応させる爆弾だった。これに対して長崎の原爆は、原子炉で生産されたプルトニウムが使われていた。広島型原爆に比べて構造が複雑になるが、以後原爆の主流となったのはプルトニウムによる長崎型だった。プルトニウムの生産はウラン濃縮よりも低コストだったからだと言われている。

原爆の材料としてのプルトニウムを作るために造られたのが原子炉だ。兵器用原子炉内でも核分裂によって膨大な熱が発生する。当初はそれをただ捨てていたが、そのエネルギーを利用できないかと発想されたのが発電用の原子炉で、アイゼンハワー米大統領の「アトムズフォーピース」演説を契機に、原子力の平和利用として原子力発電が各国で進められていく。

プルトニウムを本命視した日本

普通の発電用原子炉の中でもプルトニウムはつくられるが、ごくわずかでしかない。より効率的に、消費した燃料以上にプルトニウムを生み出すように考えられた特殊な原子炉が高速増殖炉。軽水炉では中性子を減速させて核分裂反応を行わせているが、減速しない高速のままの中性子を利用することから名前に「高速」の二文字がついている。

使った以上に燃料が生み出されるなんて、まさに「夢のエネルギー」。日本の原子力発電の黎明期から、資源の乏しい日本のエネルギーの本命として研究が続けられてきた。これは原発を保有する主要国でも同様だったが、高速増殖炉の実用化に成功した国はなく、フランスと日本の他は高速増殖炉の開発を中止した。

しかし、これまでに原発を運転してきた中で大量の使用済み核燃料が発生している。国の方針として高速増殖炉の旗を掲げ続けてきた日本は、これまですでに英仏に依頼するなどして使用済み燃料からプルトニウムを取り出してきた。

このプルトニウムはもちろん兵器、核爆弾として利用できる。あまり大量に溜め込んでいると核開発疑惑さえ生じかねない。

高速増殖炉が無理そうだからプルサーマルで

ところが高速増殖炉もんじゅが1995年にナトリウム漏れ事故を起こして以来、日本の計画は先が見えなくなっている。もんじゅの再稼働は可能かどうかさえ不明だ。そんな中で、溜まってしまったプルトニウムを何とかしようと考えられたのがプルサーマル。

ウランを燃やすことを前提につくられた通常の軽水炉で、燃料の3分の1から4分の1をプルトニウムに置き換えたMOX燃料を燃やそうというのがプルサーマルで、九州電力玄海原子力発電所、東京電力福島第一原子力発電所、四国電力伊方発電所、関西電力高浜発電所(奇しくもすべて3号機)で実施された。

エネルギーの救いの神か、破滅の王か

プルサーマルについては、運転の余裕がなくなる、制御棒やホウ素の効きが悪くなるなど懸念する指摘がある一方、核廃棄物中のプルトニウムを減らせる、廃棄物の総量や管理を要する時間を減らせるといった利点を強調する意見もある。

かつて原子力平和利用の黎明期には夢のエネルギーの本命だったプルトニウムが、高速増殖炉の実現が見通せず、その一方で核廃棄物は溜まり続け、いよいよ厄介者扱いされている。しかし考えてみれば、そもそもプルトニウムは誕生したその時から、核兵器の本命と見なされてきた冥界の番人とも言うべき存在だった。このことは忘れるべきではないだろう。

高木仁三郎さんが残した言葉

核化学の研究者でありながら、「市民の科学」を標榜し、原子力資料情報室を設立。在野の立場から原子力発電やプルトニウムの危険性を指摘し続けた高木仁三郎(じんざぶろう)さんは、第二のノーベル賞と呼ばれるライト・ライブリフッド賞受賞の翌年、そして死の前年にあたる1998年に、プルトニウムについて次のように書き残している。

(原発からの使用済み燃料を再処理工場、MOX工場などで処理・加工するプロセスを紹介したのに続けて)

こういう一連の動きが必要になるですが、ここでまず問題になるのは、使用済み燃料やそれから取り出したプルトニウムの輸送です。

仮に100年後に日本のエネルギー需要の5%を高速増殖炉でまかなうとすると、高速増殖炉に200トン、再処理工場に100トン、燃料工場に100トンほどのプルトニウムが必要になるでしょう。

つまり合計400トンのプルトニウムがないと5%のエネルギーがまかなえないと考えられます。

400トンのプルトニウムというのは、少しでもプルトニウムのことを知っている人にはべらぼうな量です。それだけの量のプルトニウムが社会で扱えるのかどうか。

たとえばアメリカと旧ソ連が持っている核兵器用プルトニウムの全量が約200トンなのですから、想像がつくだろうと思います。

普通プルトニウムの輸送には、トレーラートラックが使われますが、1台のトラックで輸送できるプルトニウムは、数10キログラムから200キログラムです。プルトニウムを積むためにいろいろな工夫をする必要があるからです。

東海村から福井県の「もんじゅ」にプルトニウムを輸送した時には、テロ対策として各県警が沿道に警察官を動員して特別な警備を敷きました。ですからプルトニウムの輸送は、2ヵ月に1回しかできないのです。

結局「もんじゅ」のためのプルトニウム1トンの輸送は、のべ十数回に及び、2年を要しました。

プルトニウムとは、そういう物質なのです。こんなものを何十トンも輸送するには、よほどの特別な体制が必要になってきます。もちろん事故の危険性もあるでしょう。しかし、それだけではなく、基本的に核物質、軍事物資のようなものを輸送するわけですから、そういうことが必要になってくるのです。

それが仮にうまくいってもたかだか5パーセントのエネルギーを供給できるかどうかです。そのために投入される費用や労力を考えると本当に5パーセントと言えるかどうかも疑問ですが、仮に5パーセントの純増になったとしても、一体それにどれだけの社会的メリットがあるのかということなのです。

(中略)

ドイツではこの問題についての議論からプルトニウム=核管理社会への拒否感が強まり、それが高速増殖炉計画をストップさせた経緯があるのですが、日本ではまともな議論がないままに、「資源小国日本はプルトニウムをやらないと将来エネルギーが足りなくなる」という話だけが先行しているのです。

引用元:高木仁三郎「市民の科学」第II部第1章(講談社学術文庫)

日本で原子力開発が始まって60年。プルトニウムがエネルギーの救いの神か、破滅の王なのか、少なくともその答えは明白だ。

文●井上良太