おすすめの国 トルコ編 ~Vol.5 オリンポス~

オリンポス

トルコで思い出深い地がある。オリンポスという村である。

村というより、集落と言った方が適切かもしれない。カッパドキアやパムッカレなどと比較すると、これといった観光スポットはないのだが、個人的に忘れられない、魅力ある場所である。

なぜ、オリンポス?

旅に出る前から、オリンポスのことを知っていたわけではない。

オリンポスを知ったのは、トルコ旅行中に出会った一人の旅人がきっかけであった。彼が「オリンポスというところに面白い宿があるよ!」と教えてくれたのだ。いったい何が面白いのだろうと思い、話を聞いてみると、木の上に作られた「ツリーハウス」の宿があるという。

その話を聞いてから、オリンポスは、頭から離れない存在になった。

子供の頃に見ていたアニメに「トムソーヤの冒険」があった。同アニメの主人公・トムの親友・ハックルベリー・フィンが、ツリーハウスに住んでいた。子供心をくすぐる家であり、住んでみたいと憧れていたものだった。

旅行当時、いい年になっていたとはいえ、子供の頃の思いは、まだ心に残っていた。トルコの南西部の港湾都市・アンタルヤに来ると、幼いころのささやかな夢を実現すべく、オリンポスへ行くことにしたのだった。

オリンポスについて

オリンポスは、アンタルヤからバスを乗り継いで、2時間ほどの辺鄙な場所にある。地中海に面した山あいの林の中にある集落で、旅行者向けの宿が何軒かある。集落で見かけるのは、現地の人よりも、ヨーロッパからのバックパッカーが多いのではないだろうか。

気候は、地中海性気候に属しており、冬でも比較的温暖である。寒さが厳しいカッパドキアからきた僕にとっては、暖かいオリンポスは居心地がよかった。

近隣に、ヤナルタシュと呼ばれる、岩の間から噴出しているガスに火がつき、燃え続けている観光スポットはあるものの、オリンポス自体には、これといった大きな見どころはなく、古代ギリシャ時代の遺跡が、森の中にうずもれるようにあるくらいである。

しかし、この寂れた感がある遺跡とコバルトブルーの地中海、森とツリーハウスが、心安らぐ特別な空間をオリンポスに作り出している。

オリンポスでの一日

オリンポスでは、ツリーハウスに2泊した。パックパッカーに人気のある宿で、ぼくが泊まった部屋は、1本の木に1つのツリーハウスが作られたタイプのものであった。オリンポスでは、積極的に観光をするのはなく、この場所ならではの雰囲気を楽しんだ。

<午前>
起床は遅め。宿は朝食と夕食がついており、指定された時間終了の少し前に起きて、ツリーハウスの食堂で朝食をとる。

食べ終わってひと休みすると、歩いて20分ほどの場所にあるビーチに行くことにした。オリンポスの中心には、美しい川が流れており、川に沿って未舗装の小さな道が作られ海へとつながっている。この小道を歩いて、海岸線へと向かった。途中、静かに流れる川を眺めたり、林の中に打捨られたかのようにある古代ギリシャ遺跡に立ち寄ったりと、道草を食いながら歩く。

海岸にでると、そこには、白砂のビーチとコバルトブルーの地中海があった。
時期は11月下旬だったが、季節を感じさせない暖かさで、ビーチではヨーロッパのバックパッカー数人が寝そべって、身体を焼いていた。しばらく海岸付近を散策すると、昼食を取りにいったん宿へと戻る。

<午後>
宿の食堂で昼食を取っていると、西洋人バックパッカーと知り合いになった。ヨーロッパから来た、20代前半の女性二人組で、食後、一緒にビーチへ行くことになった。食べ終わると、すぐに水着に着替えて、彼女らと再びビーチへ行く。ここで、トルコ最大のカルチャーショックを受ける。

ビーチに着くと、彼女らはシートを敷き、日光浴を始めた。ここまでは、日本でも見られる光景だった。しかし、なんと、隣にいた女の子が、羽織っていた上着を脱ぐかのように、水着のトップをためらいもなくはずすと、ビーチに横になった。ヌーディストビーチなる存在を、話には聞いていたが、まさか、こんな形で初めて体験することになるとは思いもよらなかった。
彼女が離れた場所にいればよかったのだが、隣というあまりの至近距離に、シャイな日本人は目のやり場に困ってしまい、どこか落ち着かなかった。海の水はさすがに冷たかったが、居心地の悪さを感じたために、時折、泳いでいた。
2時間もすると、彼女らは、日光浴に満足したのか、宿に帰ろうと言った。
ぼくは、ビーチ付近を少し探検してみたかったので、彼女たちとは別れて、近くの高台などを散策してから宿へと向かった。

宿へ帰る途中、未舗装の川沿いの道を歩いていくと、少しひらけた場所でトルコ人数名が、サッカーボールを蹴って遊んでいた。彼らは、僕の姿を見ると「ナカタ!!」と、当時、サッカーのセリエAで活躍していた日本人サッカー選手の名を叫ぶと、パスを出してきた。運動神経には、それなりの自信はあったのだが、サッカーは全くと言っていいほど経験がなく、苦手球技のひとつだった。ぎこちなくボールを止めて、蹴り返した。彼らと10分ほど、慣れないサッカーに興じて宿へと戻った。

<夜>
シャワーを浴ると食堂に行き、ディナーを取る。

トルコ料理は、世界三大料理のひとつと言われている。物価の安い、インド、パキスタンを旅行し、イランから入国した僕にとって、トルコの物価は、異常に高く感じられた。そのため、トルコに入国してからは、まともなレストランに入って、料理を食べることはなかった。この宿で初めて、トルコ料理を食べたといってもよかった。宿の料理は、特別なものではなく、一般的な家庭料理だったが、美味かった。どのような料理だったかは、ほとんど覚えていないのだが、とにかく、美味くて感動したことだけは覚えており、三大料理のひとつであることを納得したディナーであった。

夕食に満足し、しばらく食堂でくつろぐと、木の上に作られたアジトに帰った。
部屋は手狭でベッドがひとつあるだけだった。しかし、白熱灯の演出も手伝って、なんとも言えないツリーハウス独特の世界があった。時折窓を開けては外を眺めていた。

旅行をしていると、独特の雰囲気を持った宿に泊まることがある。そのような時は、決まって寝るのが惜しく感じられるのだが、この木の上に作られた家も、そのような宿であった。

オリンポスを流れる川と遺跡

ハックルベリー・フィンになりたい方へ

最初にトルコを訪れたのは、かなり昔のことであり、忘れてしまったことも多いのだが、遺跡と自然が作り出すオリンポスの独特な雰囲気。トップレスの衝撃。宿で食べたトルコ料理。そして、ツリーハウスでのひとときは、忘れることができない。

オリンポスには、観光スポットらしきものは、ほとんどないに等しいかもしれない。壮大な遺跡やショッピングなどを期待する人には、あまりおすすめはできない。けれど、豊かな自然の中で、日常では味わうことができない世界を楽しみたい旅行者には、もってこいの場所である。

<おすすめの国 トルコ編 ~Vol.6 イスタンブール~ へ続く>

オリンポス

オリンポスで泊まったツリーハウス。窓に白く小さく写っているのは筆者。

Text & Photo(※出典元記載写真を除く):sKenji