地震が近い? 謎だらけの深海古代ザメまた捕獲!
ラブカ――。
日本中の多くの水族館で、たとえば回遊式大水槽の順路の脇なんかに、アルコール漬けの標本とパネル展示などで紹介されているサメ。その展示のそばにはたいていスタッフによる手書きのキャプション。「謎の深海ザメ」とか「太古から生き延びた古代ザメ」なんて煽り文句が記されているけれど、あんまり人気はないかもしれない。
だけど、魚好きのバイブル「原色日本海水魚図鑑(保育社)」の1巻の最初のカラー図版ページにその姿が記されていたりもする。ドジョウみたいな顔にサメの尻尾を付けたような、普通の魚のイメージからは遠く離れたその姿。とはいえやっぱり、あんまり興味はひかないかもしれない。
それでも、今年に入ってから世界中から報告されている「珍しい深海魚がまた捕獲された」とのニュースの流れの中では注目を集めたようで、NHKや捕獲地の地元メディアに、そこそこ大きなニュースとして取り上げられた。
生きた化石 深海サメ・ラブカ捕獲
SBSnews6
Published on May 15, 2014
「生きた化石」とも呼ばれる深海ザメ「ラブカ」が15日、駿河湾で生きたまま捕獲され沼津市にある水族館で展示されています。
これが深海ザメ「ラブカ」です。深さ200メートルから1000メートルの深海に住み、古代から姿がほとんど変わってないと言われる貴重な深海魚です。生きたまま捕獲されることはめったにありませんが、15日朝、由比沖の定置網に生きた状態で入っていました。実はこの水族館では今年3月にも3匹のラブカが駿河湾で見つかり持ち込まれたばかりです。水族館では深海生物の神秘を感じてもらおうと週末まではラブカを展示したいということです。
あはれラブカの運命やいかに
捕獲地静岡の地元テレビSBSのニュースによると、ラブカが捕獲されたのは今年に入って2回目。映像を見ると、駿河湾名物タカアシガニと同じ水槽に生きたラブカが入れられて、そこそこ活発に泳いでいる。
されど今回はラブカのDNAを調べるため、いずれは三島市にある国立遺伝学研究所にサンプルとして提供されるとのこと。「週末までは展示したい」とのコメントは、そう長生きはできないだろうから、その後は生物進化の謎を調べるための材料として……、ということらしい。
ラブカ Chlamydoselachus anguineus GARMAN
鰓孔は6対ではなはだ大きく, 鰓孔間の膜はひだ状。背鰭は1基で棘がない。尾鰭の下縁に切れこみがない。深海性で, 4月下旬から7月下旬が生殖期。胎仔数は6〜12尾。深海延縄にかかることがある。きわめてめずらしい種であり, 原始的なサメとして有名。相模湾以南, オーストラリア・アフリカ・大西洋に分布する。全長2m。
引用元:原色日本海水魚図鑑-I(保育社)2ページ
きわめて珍しい深海魚が見つかったのは地震の前兆では、とか、どうせ長生きできないだろうから遺伝子調査のサンプルに、なんて人間サマの思惑を裏切って、長生きしてくれよ、駿河湾のラブカくん! そう願わずにはいられない。
週末までの展示を目指しているのは、静岡県沼津市にあるあわしまマリンパーク。この週末は、深海からの使者に出会いに行ってみては。
(で、水族館の皆さまにはお願い。無事に週末を生き延びたあかつきには、ラブカくんを海にもどしてあげるわけにはいかないものでしょうか。DNA調査のサンプルだったら、アルコール漬けの標本からでも取れるでしょ!)
あわしまマリンパーク
淡島は海から突き出した火山の根っこ。ジオな魅力もいっぱいです……。
淡島は海から突き出した火山の根っこ。ジオな魅力もいっぱいです。島を一周する遊歩道では、柱状節理や獅子岩などのジオ遺産にも出会えます。マリンパークの水族館はこぶりながらも、特異な環境である駿河湾の生物の展示や、身近な海の生き物に直接触れるコーナー、レベルの高い海棲動物のショーも楽しめます。さらに日本屈指のカエル館も見どころですよ!
――と、まるで宣伝みたいになってますが、ラブカが生きる海そのものが神秘の世界。富士山も、深い深い駿河湾も、そこに暮らす生物たちも、ぜんぶ引っくるめて地球なんだなあ。そうそう、われわれ人類も。
文●井上良太