息子へ。被災地からの手紙(2013年3月30日)

女川の石田さんと電話で話していたら、

「昨日とおととい、雪が降ったんだよ。積もるような雪じゃなかったけどね」

と唐突に雪の話になった。
前日に桜吹雪の中でお花見をしていた父さんは、電話口でこんな風に言いたくて仕方なくなった。

「こっちは桜の花びらが雪のように舞っていますよ!」

風流な季節のお話しだと思ったんだ。

こっちが話したくて仕方ない様子を察したのかどうなのか、石田さんは雪の話を続けて父さんに喋らせてくれない。そして、

「去年もおととしもそうだった。4月になってもね、急に寒くなる日がある。だから、次に来る時にはジャンパーでいいから羽織るものを持ってくるんだよ。もうダウンじゃなくてもいい。薄手のでいいからジャンパーを忘れないでね」

毎日のようにニュースで桜の話題が取り上げられている。でも、東北はまだ寒いんだぞ。そんなことを知らせてくれる思いやりのこもった言葉だったんだ。

ジーンとして、ちょっと恥ずかしくなって、そして桜の花びらが、女川の山を背景にして風に流れていく雪片みたいに思えた。

石田さんのやさしさが沁みました。
これが被災地の方のやさしさなんだなと、ちょっと大袈裟ですが思いました。