先月、京都に行った際の話です。
豊臣秀吉の妻であるねね(北政所)が亡き秀吉の御霊を供養するために建てられ、余生を送ったとされる高台寺。清水寺や祇園から徒歩圏内の場所にある人気の寺院です。
境内の一部は重要文化財に指定されており、安土桃山時代の文化を学べる由緒あるお寺。その一方で、庭園のライトアップやプロジェクションマッピングなど、寺院としては珍しい最新の技術を活用した鑑賞プログラムにもチャレンジしています。伝統を重んじながらも、今の時代の人にも関心を持ってもらうための工夫を積極的に取り入れています。
ロボットから仏教を語る
そんな高台寺ですが、何やらまた新しいことに始めたという噂を聞き、見学してきました。
名前は・・・アンドロイド観音「マインダー」です。
顔は人間を再現していますが、胸から下は機械がむき出しになっていて少し恐い。。。
高さは自分よりも顔一個分高いと感じるぐらい。(実際は約1.95メートルとのことです)
このマインダー(観音様)が何をしてくれるかというと、仏教の教えをもとにわかりやすく語って下さる法話です。仏式法要でお勤めをした後にお坊さんがしてくれるお話というとイメージしやすいかもしれません。昔から伝えられる教えは現代の人にも参考になることも多く、現に世の中の仕組みや日常で使っている一部の言葉は仏教がルーツとされています。
その内容は?
見学会は方丈や霊屋などの歴史的建造物から少し離れた教化ホールで行われました。
1日に5回開催される中、今回は午前の部を選択。ホール内には50席ほどの椅子が設置されていて、自分の以外に見学していた方はだいたい15名程度でしょうか。なかには子連れで参加する方もいて、小さなお子さんはマインダーに興味津々でした。
法話中以外は写真を撮っても良いとのことでしたので、子どもに混じって自分もスマホで撮影。法話前と後で手の位置が変わるとお寺の方がおっしゃっていたので、お礼(目の前に置かれている賽銭箱にお供え)をしながら、法話前後でしっかりと撮影してきました。
《アンドロイド観音マインダー》の説法は今の世の人々にもわかりやすいようマインダーとプロジェクションマッピングに登場する聴衆たちとの平易な言葉でのやり取りにより展開していきます。
その後、時間どおりに法話がスタート。ホール内が暗転し、全方向の壁を使って映像を映し出します。異空間にいるような感覚を味わえ、まるで何かのアトラクションのようでした。するとマインダーが動き出し、私たちに語りかけてくれます。
(語りは日本語ですが、マインダーの横で翻訳された字幕を映し出すことで英語、中国語にも対応しています。)
テーマは仏教の基本的な考え方にあたる「空(くう)」の教えです。
自分に執着することをやめれば、この世のあらゆる変化を受け入れられるようになり、苦しんだり悩まなくて済むようになるという考え(空の意味)。また、物事をありのままでしか見れなかったり、欲や執着などによって迷える心(煩悩)についても触れています。
そして、中盤以降は見学者を取り囲むようにさまざまな人(映像)が壁に映し出され、空に関する質問にマインダーが答えていくという流れに進み、般若心経の最後の一文を唱えてプログラム終了です。
アンドロイドが観音様になる意味
心を持たないアンドロイドが観音様になり得るか?という究極の問題はさておき、今回の見学を通じて、今までにない切り口から仏教の教えに触れられるという点において意味あるものだと思いました。
新しい取り組みを仕掛けてきたのは、このお寺の後藤執事長なのですが、この方の言葉がとても印象的です。
「仏教は約1500年前に日本に伝来して以来、カタチを変えて人々に教えを伝えてきました。高台寺も時代に合わせスタイルを変えていくことも必要」
お寺にテクノロジーを持ち込むなんて発想は少し前にはなかったことだと思います。自分は世の中のさまざまな分野の中でも、お寺や仏教は特に相性の悪い分野だと思っていました。(例えば、人に教えることやお経を読んで供養することなどは人間が行うから成立するのであって、ロボットでは成立しないというイメージ)その観点でいえば今回のプログラムは、単に仏教の関心を広げるためだけではなくそういった常識を覆すことへの挑戦とも捉えることができました。
お笑いにも!
後藤執事長の発案から始まった今回のプロジェクトですが、マインダーの開発を手がけたのがアンドロイド研究の第一人者として知られる大阪大学の石黒浩教授です。
これまで生み出してきたアンドロイドでは人物を忠実に再現。(マインダーの人間的な表情や仕草の奇妙さが忘れられない)代表的な作品の一つとして知られるマツコロイドは、本人とうり二つで初めて見た際にたいへん驚きました。
本人にそっくりなアンドロイドと言えば、こちらにも触れておかないと。アンドロイドとの会話でこれだけ笑いを起こせる人はこの方しかいないのかもしれません(笑)
普段は話し相手を自分のペースに巻き込んでいるのに、アンドロイド相手だと逆にペースを握られてしまっていて、なんとも不思議な掛け合いです。
トットの部屋 第1回 ゲスト 黒柳徹子さん【totto】
これを見ると近い将来、仏教だけでなくお笑いにも当たり前のように登場する日が来るかも。そんなことまで想像してしまったアンドロイド見学体験記でした。