さかなさかなさかな さかなを食べると

ゴールデンウイーク、ある日の真夜中、わたしは転げまわるような激しい胃の痛みで目を覚ましました。

「あ…またアイツかも…」

すぐにそう思いました。「アイツ」というのはズバリ「アニサキス」のこと。人生経験上、こんなに激しい胃の痛みはアニサキス以外に考えられないからです。

アニサキスというのは主に魚介類の内臓に寄生している寄生虫。時間が経つと筋肉に移動することもあります。これを持っている魚を食べると、運が悪い場合はコイツが胃や腸の組織に入り込んで、激しい痛みや嘔吐を引き起こします。

特徴は「のたうちまわるほど痛い」こと。胃薬は効きません。

わたしはこれまで、このアニサキスを2回経験しています。1回目は「しめサバ」。2回目は「ヤリイカ」です。2回とも同じ病院へ行って内視鏡で取り除きました。

「運」と予防

「サバやイカに多い」とか「マグロにはほぼいない」など、種類によってだいぶばらつきがあるようですが、日本近海の魚介類150種以上からアニサキスが検出されているそうです。

しかしここで再確認。さきほど「運が悪い場合は」と書いたように、アニサキスのいる魚を食べたひとすべてがこの激痛に襲われるわけではありません。人によってはアニサキスのいる魚を食べてもまったく症状が出ないこともあります。過去2回とも私と同じものを食べた妻は全然平気でした。

「でもわたしは絶対そんなのイヤだ」という人は「生の魚を食べないこと」を徹底すれば大丈夫です。

アニサキスは「60℃以上で1分間、70℃以上なら瞬時に死滅する」ので、加熱調理した魚は安全です。

さらにアニサキスは「冷凍すると感染性を失う」ので、マイナス20度以下で24時間以上冷凍するのも有効。サケの昔ながらの食べ方として「ルイベ(凍った刺身)」があるのは、とても理にかなっているわけです。

アニサキスは酸に強いので、しめサバの酢ぐらいでは死にません。だって胃酸でも死なないんですから。

あと、たまに予防法として「よく噛むこと」なんて書いてあったりしますが、日本を代表するアニサキサーであるわたしに言わせてもらえば「そんなの気やすめ」です。「刺身をチマチマいつまでも噛んでられっか」というのもありますよね。

サバやイワシ、サンマなどの青魚やイカの刺身に細かく包丁を入れることが多いのは、アニサキス対策でもあるのです。写真はアカヤガラ、キンメダイ、アオリイカ、アジ。

寿司のサーモンは大丈夫?

先ほど昔ながらのサケの食べ方として「ルイベ」を紹介したように、サケもアニサキスがよく寄生する魚だと言われています。じゃあ、子供たちが大好きな寿司ネタとしても知られる「サーモン」は大丈夫なのでしょうか?

結論から申しますと「大丈夫」です。一般的に「生食用」として出回っているサーモンは養殖もので、アニサキスの中間宿主である「オキアミ」を食べていません。なのでアニサキスの心配はほぼないのです。

殿堂入りならず

話を元に戻しますと、わたしが胃の激痛に襲われたのは5月1日。その日も刺身を食べました。自分は連休中でしたが幸い翌5月2日は世間的には平日。病院がやっているのでこのまま朝まで起きて(痛すぎてどうせ眠れない)朝イチでいつもの病院へ行こうと思っていました。

ウソみたいな話ですが、過去2回とも同じ病院で診てもらったので、わたしのカルテには「しめサバ」「ヤリイカ」と書いてあります。かっこいいでしょう。

もし今回もアニサキスなら3回目です。「殿堂入り」してもいいぐらいです。でも実際は明け方ごろから痛みが徐々に後退し、ふつうの胃痛レベルになりました。感覚的にも「アニサキスじゃないな」と思いました。

その後ウソのように痛みは消えていき、そのまま家族と出かけたりして1日を過ごすことができました。

その日は嫁の妹が帰省してきたので、夕食は前々から決まっていたとおりに出前を取りました。大好物のお寿司です。ぜんぶ本当の話です。

1回目のアニサキスを取った時、先生が「せっかくだから持って帰ります?」と言ってくれたので。

<追記>最近のニュースでも

今週になってこんなニュースが入ってきました。

「徳島県内では5月、鳴門市の量販店で購入したカツオの刺し身を食べた男性が、アニサキスによる食中毒を発症。県安全衛生課は魚介類を扱う事業者に注意を呼び掛け、ホームページに警告文を載せた」

「徳島県内の量販店の鮮魚売り場では、寄生虫『アニサキス』による食中毒被害を懸念して生カツオの販売を控える店と、安全確認を徹底するなどして提供を続ける店に対応が二分している」

というものです。お店によって対応は分かれていますが、カツオの本場・高知に近い徳島でさえも「生で売るのは控えよう」という動きが出ているんですね。お店としては安全を徹底したいですからね…。

生の魚をあんなに美しくさばいておいしく食べるのは素晴らしい文化です。だからこそ、もし「生の魚が買えない」なんて状態になってしまったら悲しすぎます。「自己責任」と言ったらちょっと重いですが、「なる時はなる」というか…(アニサキスを2回経験している個人の見解です)。

もしも万が一激しい胃の痛みに襲われたとき、生の魚を食べた心当たりがあったら迷わず病院へ!事前に「アニサキスかも知れない。内視鏡で取り除いてもらえるか」を確認してから行くのがいいです。先生にも魚を食べたことを必ず伝えましょう。