岩手と言えば『盛岡三大麺』だ。わんこ蕎麦にジャジャ麺、そして冷麺。いずれも甲乙つけがたいものながら、さわやかな酸味のあるスープに弾力ある麺、さらにキムチなどがあしらわれた冷麺を三大麺の筆頭に推す声も大きい。
山田町の南、船越半島の付け根に位置する道の駅やまだは、海産物や農産物、地元のお菓子や復興支援グッズが取り揃えられた産直売店と、地物にこだわった食材のレストランで有名な道の駅。つい先日も松茸など地元のキノコをふんだんに取り揃えた秋祭りで大賑わいだった。
そんな道の駅やまだのレストランにぶらりと立ち寄って目を引いたのがこれ。三陸めかぶ冷麺だ。
麺好きとして魅了されそうなメニューが数ある中、ちょっと肌寒くなってきた季節ながら今を逃すと次のシーズンまで食べられなくなるかもとの思いから、券売機のボタンをポチッと押したのだった。
冷麺といえば本場は盛岡。ここは岩手県とはいえ盛岡からは離れた海岸沿いの山田町。この選択が吉と出るかどうか。してその結果は、吉も吉、大吉、超吉、超大吉だった。
まず冷麺そのものが美味い。盛岡からは北上山地を越えた海岸沿いの山田町とはいえ、やはり冷麺に対する味覚の厳しさは全県規模なのだろう。(たしかに盛岡ならずとも、大船渡でも陸前高田でも花巻でも冷麺を注文してがっかりした経験はない)
驚きの瞬間は三口目あたりでやってきた。
写真では白髪ネギの向こう側でちょっとしか写っていないのだが、三陸名産のめかぶを冷麺と絡めて食べたその時にその瞬間はやってきた。
ただでさえ身体にいいとされる海草類。しかもめかぶには特有の粘りがある。粘り気そのものも美容や健康にいいとされるし、そもそもそれ自体が美味しい三陸の食材なのだが、道の駅やまだのめかぶの粘り気は群を抜いているのではないか。
丼に載った具材ごと全体をぐちゃぐちゃっと混ぜようとしても、混ざりきれないほどの粘り気。こりゃ混ぜるのは無理だと思いつつ口に入れた時に初めて感じたこの食感。(ごちゃ混ぜにしてしまったので、驚きの瞬間の写真がないのが残念でならない)
あんまり引っ張っても仕方ないからストレートに言うなら、めかぶの粘りが具材それぞれを仕分けてくれるのだ。キムチの部分はキムチ味の冷麺。白髪ネギの部分はネギ冷麺、小エビのところは小エビの味わい、そして葉ワカメのところはワカメ冷麺。そのベースにはさわやかな酸味とめかぶのコク。
面食いとしてこれまでいろんな麺を食べてきたが、丼という限られた空間の中でこれほどまでに様々な味わいを楽しませてもらったことなど、未だかつてなかった。
冷麺といえば岩手の三大麺のひとつ。そしてめかぶは三陸沿岸でイチオシ食材のひとつ。そのふたつのカップリングが奇跡の一椀を生み出した。
道の駅やまだの三陸めかぶ冷麺680円。食べながら「こりゃ大発明だ、天才だ」とどれくらい呟いたことか。おそらく30回は下るまい。注文してからおよそ20分スープまで完食。食べ終わったその後も「天才だ、天才だ」と呟きつつ、仕舞いにゃカメラを店内に忘れて来てしまうほど天才的めかぶ冷麺に魅せられてしまったのだった。
天才に説明など不要なものながら、地場の名品に地場の名産を掛け合わせることで天才的なものが生まれる。東北は、そして三陸には想像を超えた可能性が眠っているに違いない。