8月31日の産経新聞の電子版に掲載された「【野口裕之の軍事情勢】米中二股 韓国が断ち切れぬ「民族の悪い遺産」」というコラムに登場する「事大主義」という言葉がネット上を飛び交っている。
このコラムの記事が、韓国の外交は「強国に弱国が付き従う事大主義」などと指摘していることに対して、韓国政府が削除要請をしたからだ。元々のコラムには「事大主義」という言葉の意味が説明されているものの、韓国政府の対応を伝える他社記事には言葉の説明が不十分なものもあるので、注目を集めている記事の冒頭を引用。
韓国外交を眺めていると、中島みゆきさんの名曲《時代》が、どうしても頭に浮かぶ。
♪めぐるめぐるよ時代はめぐる 別れと出会いをくり返し
時代を《事大》に置き換えると、韓国外交哀史が鮮やかに浮かび上がる。《事大主義》とは《小》が《大》に《事(つか)える》こと。強国に弱国が付き従う外交形態を指す。
産経新聞が削除要請に応えるかどうかは不明だが、興味のある方は早めにどうぞ。ただし内容や読後感については保証しかねる。
コラムの内容よりも興味深いこと
コラムの内容は、韓国がいまも「民族の悪い遺産」を引きずっていると指摘するもの。日本が明治時代だった頃の李氏朝鮮が、清(中国)、日本、ロシアなどの強国にに付き従ってきた「事大主義」と、状況に応じて頼みとする相手をころころ変えてきたことを「民族の悪い遺産」と批判している。「民族の悪い遺産」とは、朴槿恵(パク・クネ)大統領の父、朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領の言葉だという。
朴槿恵大統領が中国の抗日戦争勝利70年記念軍事パレードへの参加を表明したり、北朝鮮との対立がエスカレートすると在韓米軍の後ろ盾を頼みにしていることへの面当てのような記事だ。
だから、この記事の内容がどうこうという議論はどうでもいい。むしろ「事大主義」という言葉が、産経新聞をはじめとした現在の日本の多くのメディアについてもピッタリ当てはまるところが面白い。
一時は韓流ブームの立役者として振る舞っていた産経新聞やフジサンケイグループの豹変。安倍政権を擁護する記事を連発していたのに「談話」に関して態度を変えたことで「事大」の対象が首相官邸ではなく海の向こうの国だと判明してしまった読売新聞。干されることを恐れるあまり局がまるごと萎縮したNHK…。
その時々の風を読んで、より強い方に付くことで身の保全を図ろうとするのはマスコミばかりではない。ひとりひとり私たちも胸に手をおいて考えてみるべきではないか。
「なるほど!」と上司におべっか使ったり、会議で大勢が見えてくるまで発言しなかったり、力の強い者に従って弱い者をいじめたり、面従腹背することを「大人の対応」と評価してみせたり(これは事なかれ主義?)、そもそも70年前、威張り散らしていた帝国日本という国家から、数カ月のうちに占領軍にシッポを振るようになったことを見ても、この国の多くの人々に事大主義的行動様式が染み込んでいると思わないか?
歴史の蔵の中で埃をかぶっていた「事大主義」という言葉を引っ張り出してきてくれたことに関してのみは、産経新聞が下品なケンカを売ってくれたお陰と感謝したい。
願わくば、こんな下らない記事が、両国民の間のわだかまりになりませんように。(これも対立を逃れたがる事なかれ主義か?)