下は、地下水の放射線量が上昇した際に、「降雨の影響」との推定を記載した東京電力の発表書類。建屋近くのサブドレン水(井戸)の濃度が上昇した際にも、汚染水が漏洩したタンク周辺など、その他の地下水の濃度が上昇した際にも「降雨の影響」という言葉が繰り返されてきたが、このところ状況が少し変化してきている。
続出する「悪天候のため採取中止」
近頃の東京電力の発表では「悪天候のため採取を中止」という言葉が明らかに増えている。採取ができないほどの悪天候だったのか、事故原発から10kmほど(3号機原子炉建屋まで直線距離で9.7km)に設置された気象庁のアメダス観測ポイント「浪江」のデータを調べてみた。
14日から17日で見ると、降水量の合計は0.5mm、2.5mm、3.0mm、7.0mmだ。
とくに注目したいのは14日。気象庁の「雨の強さに関する用語」によると、0.5mmの降水は「小雨」となる。しかも10分間の最大も同じ0.5mmだから、ごく短時間小雨が降ったと考えられる。10分間に2.5mmの雨が記録された15日は「強い雨」だが時間は短い。
16日と17日については、さらに10分ごとのデータを調べてみたが、16日は日付が変わった午前0時前後に10分あたり0.5mmの降水。それ以降はずっと0mmだ。17日も未明に強い雨が降る時間帯があったものの、日中は0mmだった。
最大瞬間風速を見ても10m未満。とてもサンプル採取ができないような「悪天候」ではない。まさか10kmしか離れていない場所で、天気がガラッと違うなんてことはないだろう。しかも東京電力が発表した平成27年6月17日付の「福島第一港湾内、放水口付近、護岸の詳細分析結果」では、悪天候のため採取中止のはずなのに、港の外の太平洋でサンプル採取が実施されているのである。
その上、外洋で採取されたサンプルから、全ベータが過去最高値を記録しているという余録までついてきてしまった。採取中止の判断はいったいどうなっているのか、もはやメチャクチャとしか言いようがない。
高い数値が出そうな時には採取中止?
まさか、そんなことがあってはならないことなのだが、高い数値が出そうな時には悪天候にかこつけて採取を中止しているのではないか。あるいは採取はしているものの発表していない。さらに穿って考えれば、台風のようなよほどの荒天でない限り、採取も分析も行っていて、高めの数値が出た時には採取しなかったということにしているのではないか――。そんな疑念まで浮かんでくる。
上に紹介した「福島第一港湾内、放水口付近、護岸の詳細分析結果」のデータの赤で囲んだ部分は原発の港の防波堤の外側である(下図の赤丸囲み)。他方、右側(サンプルの採取は中止された)は防波堤の内側だ。「悪天候のため採取を中止」という「悪天候」がサンプル採取を行う社員の安全を考慮してということなら、意味が通らない。
そこには作業の安全といったものとは別の含意があると考えざるをえない。「悪天候」でなぜサンプル採取を中止しなければならないのか、その理由を示唆する記述が、タービン建屋東側、つまりもっとも海に近くかつ海面から4mという低い地盤での地下水観測データにしばしば登場するので紹介しよう。
キーワードは「濁度」
データの下に注記されているのは、「濁度高のためガンマ測定は実施せず。全ベータは参考値としてろ過後に測定」。
事故から4年以上が経過したこんにち、ガンマ線を発する核種の主なものは放射性セシウムである。セシウムは土や砂などの粒子に吸着しやすい性質を持っている。事故原発でセシウムを一次除去する装置が、ゼオライトという多孔質鉱物にセシウムを吸着させる仕組みになっているのもそのためだ。
つまり、濁度が高いということは水を濁らせている細かい土などの粒子に付着して、放射性セシウムがうじゃうじゃ存在する可能性が極めて高いということだ。ガンマ測定をしないということは、高いセシウム濃度が数値として出てしまうことを(その目的がなんであれ)避けているものと考えられる。
ベータ測定をろ過後に行うという意味も、セシウムの場合とほぼ同様だ。ベータ核種の主なものである放射性ストロンチウムもまた、セシウムほどではないまでも、土や砂に付着する性質があるからだ。汚染水処理が間に合わない状況になって急遽導入されたストロンチウム除去装置は、基本的にはセシウム吸着装置に特殊なフィルターを装着した仕組みだという。ろ過後にもストロンチウムは残るものの約100分の1程度には減少するらしい。だから、濁りを濾過したものを分析し「参考値」として発表しているのだと考えられる。
では、なぜ?
サンプル採取した地下水の濁りが高い場合とそうでない場合であまりに数値が違うから「比較の対象として不適切」という理由も考えられる。
しかし、数値は数値として発表した上で、「濁度高」と注釈すれば済むのに、測定すらしない、参考値としてろ過後の数値のみを発表するというのが、「高い数値を公表したくない」という姿勢の表れであることは明白だ。
その他にも、ホースが破れて汚染水が側溝に漏洩したトラブルの後、側溝やそこから派生する枝側溝の近くにある、地下水バイパス用の汲み上げ井戸のポンプが、「ポンプ点検のため採取中止」となっている件も同様に気になるところだ。
信頼は回復できるのか?
「悪天候」の際には地下水の流量が増えるなど、サンプルの濁度が高まることは想像に難くない。だから、濁りが出そうな場合には最初から採取をしないようにしよう、あるいは採取・分析は行っても発表する資料では「悪天候で採取中止」と記載することにしよう。その時の分析で数値が高くなくても、実際に高い数値が出た時だけ中止扱いにすると不自然だから、たとえ小雨であっても降水があった時には「悪天候で採取中止」ということにしよう――。
傍証による推定でしかないが、地下水などの汚染度の発表に当たり、そのような「マネジメント」が行われている疑いがきわめて高い。
6月12日、いわき市の漁協が建屋近くの井戸から汲み上げた地下水を浄化後に海洋に排出する東京電力の対処法に対して「拒否」の姿勢を明らかにした。地元の復興のためにむしろ東京電力に理解を示してきた漁協が頑なに拒否の姿勢を示した理由として、福島民友新聞は「(東電を)信用できない」という言葉を伝えている。
「データの公開」を宣言した東京電力の内部で、仮に公表するデータのマネジメント、つまりは意図的な管理が行われているのだとしたら、信頼回復がはたして実現しうるのかどうか、はなはだ疑わしくなってしまう。
そもそも濁度が高くて高い数値が出たとしても、その理由が納得できれば信頼関係まで損なわれることはないだろう。高い数値が出そうな時にサンプル採取もしないというのは、地元の人たちや一般の市民をあまりにもバカにしてやいないか。
※続編として、降雨時に地下水の放射能測定値が高まる理由について、事故原発の地質についての資料から考える記事を掲載します。