放射能の測定結果で見かける「ND」はゼロという意味ではない。「not detected」、未検出ということだ。検出限界値まで計ってみたが検出されなかったというわけだから当然ながら、放射能はその限界値より低いことを意味している。
福島第一原発には港があって、その港湾内と港の外では放射能の濃度に大きな違いがある。3月25日に東京電力が発表した「福島第一港湾内、放水口付近、護岸の詳細分析結果」には、当日発表より以前の海水の放射線データが記されている。
左側、ピンク色で囲った方は港湾内。極端に大きな数値は見られないものの実数が並んでいる。これに対して右のブルーで囲った方は港湾外。つまりは事故原発の近くの太平洋の放射線測定値だ。0.7とか1.6といった実数も見られるものの、いずれもかなり小さな数字。そして実数よりも「ND」の方が多いくらいだ。
最高責任者を自認する総理がブエノスアイレスのオリンピック招致会場で「汚染水による影響は、福島第一原発の0.3平方キロ以内で完全にブロックされています」とアンダー・コントロールを強調することが可能だったのは、このデータの裏付けがあったからだろう。汚染物質は港の外まではほとんど漏れ出てはいないと。
ところが、「汚染はブロックされている」という根拠は崩れ落ちてしまった。
原発から太平洋に向かって伸びる防波堤の外側の太平洋で、ストロンチウムなどベータ核種の総量を示す「全ベータ」の値が実数として検出されたのだ。
1リットルあたり18ベクレルであったとしても
全ベータが実数で検出されたのは、北防波堤北側・港湾口北東側・南防波堤南側の3箇所の海水。数値はそれぞれ1リットルあたり18、17、15ベクレル。濃度そのものは低い。告示濃度限度(経産大臣が告示で定めた濃度限度。ストロンチウムでは30Bq/L)を下回っている。
しかし、これまでNDだったものが、実数として計測されたことが持つ意味は大きい。検出限界未満というこれまでのデータであれば、「汚染水はコントロールされている」という強弁も辛うじて正当化しうるかもしれない。しかし、小量であれ太平洋の海水から検出されてしまった以上、汚染された事故原発から、なんらかのルートを通って汚染物質が海洋に流れ出していることは間違いない、ということになった。
汚染は港湾の内側に留められているという言表が、事実に反することになったのだ。
大きく取り上げられない理由がわからない
しかし、このことはマスコミはおろか、ネットでもほとんど取り上げられていない。なぜなのだろうか。
総理大臣がどう言おうとも、港湾は塞がれているわけではないから、当然水の出入りはあるに決まってる。だから港湾外の海水から多少の放射能が出ても不思議はない。そんなに目くじらを立てるような問題ではないだろうと「おとなの態度」を決め込んでいるということか。
しかし、これまではNDだったが、とうとう実数が出てしまったのだ。まったく違うレベルの話になってしまったのである。
太平洋の海水での汚染の推移を見ていこうと思ったが、東京電力は26日以降、当該の北防波堤北側・港湾口北東側・南防波堤南側の海水データを公表していない。ことの重大さが認識されていないのだろうか。