究極のリスクマネジメント「ライナーバック」
野球の応援席(テレビで見てても同じです)で、攻撃チームの応援側の声が、
「おー!」(歓声)
「あ~」(ため息)
って間髪入れずになる時は、どんな時だと思いますか?
いい当たりのライナーが、内野手に捕られた時です。
では、
「おー!」
「あ~」「あ~・・・⤵」
は、どんな時かと言うと、いい当たりのライナーが、内野手に捕られて、ランナーが戻れずにダブルプレイになった時です。
ヒットが出れば、ランナー生還の場面で、いい当たりのライナーを捕られて、一瞬のうちにダブルプレイ。得点!と思ったら、一瞬のうちに二つのアウトを取られ、ランナーまでいなくなってしまう。
まさしく「おー!」「あ~」「あ~・・・⤵」の瞬間です。
これ守備側の応援では、「あっ」「おー!」「ぅおーー!!⤴」となります。
攻撃側は、意気消沈し、守備側は盛り上がります。天国(チャンス)と地獄(ピンチ)の立場が一瞬に逆転してしまいます。
ランナーは、こうした場面でダブルプレイにならないように、ある『鉄則が』があります。それが「ライナーバック」です。
これを説明するのに丁度良い場面が、選抜甲子園大会1回戦、3月22日の静岡VS立命館宇治の試合でありました。
ぽたるページの野球通、doraemonさんの【静岡と立命館宇治の試合を振り返る 『1つのプレーから流れは静高に』】の中でも、記述されているシーンですので、引用させていただきます。
◎不運とミスで流れを変えてしまった立命館宇治
・・・立命館宇治はヒットで出たランナーをバントで送り得点圏にランナーを進めます。
1死2塁というチャンスを作り、次のバッターがセカンドライナーでアウト。これはセカンドの頭を超えるかという打球を大石くんがジャンプして好捕。
抜けていればもしかしたら1点追加という場面でした。ランナーは何とか帰塁し2死2塁。
引用元:【ぽたるページ】静岡と立命館宇治の試合を振り返る 『1つのプレーから流れは静高に』 - By doraemon - ぽたる
立命館宇治の応援席が、
「おー!」「あ~」「ふ~。。。」となった瞬間です。
立命館宇治の2塁ランナーは、なぜダブルプレイにならずに済んだかがポイントです。
そこには、ランナーが行っている「リスクマネジメント」があるからです。「抜けていたらもしかしたら1点追加」と書かれている通りのシーンです。外野からの返球により、ホームでアウトにならないためには、早いスタートが必要です。ところが、セカンドの好守備で打球は抜けませんでした。でも、2塁ランナーは帰塁してセーフになっています。
スタートが悪く、たまたま戻れたわけではありません。そこには、2塁ランナーに限らず、すべての塁のランナーに共通する「ライナーバック」という『鉄則』があるからです。
打球と同時にスタートを切った場合、フライと違ってライナーは一瞬のうちに野手に捕球されるリスクがあります。そこですべての塁のランナーは、ライナー制の打球に限っては、完全に内野手を抜けると確信(判断)できないない場合は、最悪の事態である捕球された場合に備え、飛び出さないように訓練しています。それが「ライナーバック」と言われるものです。
訓練とはどういうことかというと、打ったら走るが野球の原則です。ランナーは少しでも早く次の塁に到着するように、小さい頃から反射的に反応します。少年野球を始めた頃からの『習性』ですから、打球とともに体が反応するように出来上がっています。完全に条件反射です。
ところが、内野手が捕球することができるかもしれないライナーに関してだけは、絶対にとどまって結果を見極めてから動くことをしなければなりません。条件反射に対して、違う条件反射を身につけるのです。だから『訓練』です。頭で理解するだけではダメで、体も理解しなければなりません。
では、もし引用のシーンが、セカンドの頭を抜けたヒットになった時、2塁ランナーはホームへ生還できるかというと、可能性は低くなります。スタートの判断を捕球リスクを避けて遅くした分、3塁止まりになる可能性が高くなります。
往々にしてこういうシーンでは、「2塁ランナーなにやってんだよ!」「下手くそ、判断悪い」と味方側の応援席から非難されることが多いのです。実は監督やベンチの仲間からは「ナイスランナー!」と誉められているのです。
引用のシーンでは、1死2塁でしたから、ヒットだったとしても、まだ1死1・3塁と攻撃のチャンスが継続します。実際はセカンドライナーでしたから、2塁ランナーが飛び出していたら、ダブルプレイでスーリーアウト、チェンジです。
1点を取るかどうかの選択ではなく、即1点をあきらめてでも、ヒットなら1死1・3塁、ライナーが捕られたら2死2塁という覚悟の選択をしているのです。2死2塁でもまだチャンスであることには変わりません。ダブルプレイでチェンジが最悪なので、それだけを避けます。
それでもダブルプレイになってしまうランナーがいます。プロ野球選手でもいます。
考えられるのは以下の場合です。
(1)ヒットエンドランがかかっていた場合は、ランナーは投手の投球で走ります。盗塁する時と同じタイミングですから、ライナーとわかった時、もう戻れる位置にはいません。この場合は、一か八か抜けることを願って突っ走ります。
(2)2塁ランナーの場合、ショートは自分より後ろにいるため、打球が飛んだ時にどの位置を守っているかの判断がつきにくいのです。2塁への牽制球もあるため、投手が投球動作にはいるまでは、2塁ランナーの近い位置にいても、投球動作と同時に守備位置に戻ります。2塁ランナーには、その動きが見えないため、判断が狂う場合があるのです。
(3)判断ミス。打球をずっと見てというより、打った瞬間にボールが飛び出す角度・方向で判断をします。もしヒットなら、やはり少しでも早くスタートはしたいのです。抜けると判断したのに、抜けなかった場合ですね。判断のセンスのなさです。
(4)どうしても飛び出す癖がある選手がいます。ランナーとしては下手くそということです。
ランナーコーチやベンチからは声をかけたりもします。「ライナーバックね」と。確認のため念をおします。甲子園ではブラスバンドなどで聞こえませんが、地方大会などで、ベンチからしつこいくらいに「ライナーバック」の声がかかっているときは、ランナーが(4)タイプの選手と思って間違いないでしょう。
選手が「ライナーバック」の『鉄則』を守ったために、スタートが遅いように見えても、その時は「良い判断だね」と言えると通です。