新宿駅南口、高島屋の前でビッグイシューを買いました。表紙をめくると「読者のみなさまへ 消費税増税に伴う雑誌『ビッグイシュー日本版』の価格変更のお願い」という文字が飛び込んできました。
雑誌「ビッグイシュー」をご存知ですか。
1991年にロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊されたマガジンです。この雑誌は本屋さんではなく路上で販売されています。販売しているのはホームレスの人たちです。
表紙に「300円のうち、160円が販売者の収入になります」と記載されているとおり、街頭で雑誌を売ることでホームレスの人たちが収入を得、路上生活から簡易宿泊所へ、さらに少しずつ貯金して敷金を貯めてアパートを借りて住所をもち、その住所をベースに就職活動を行うというステップで、ホームレスの人の自立を応援する雑誌です。
雑誌を発行しているビッグイシュー日本のコンセプトは、ホームレスの人の救済(チャリティ)ではなく、仕事を提供し自立を応援すること。事業として継続していくと肚を括って「NPOではなく有限会社」として運営されています。
社会的企業(社会問題の解決のために、ビジネスの手法やノウハウ、戦略を注ぎ込みチャレンジしていく企業)として、日本を代表するもののひとつがビッグイシューなのです。
2014年2月1日号(232号)のコンテンツには、特集「雪エネルギー。「雪国」日本の資源」、スペシャルインタビュー「中村蒼&佐々部清」、浜矩子さんの「すべての規制は既得権益なのか」、「自閉症の僕が「生きていく風景」 対話編21」など、編集のプロの人が見ても「よくぞ!」と唸りそうなテーマがずらりと並んでいます。
過去の号では被災地や原発被害といった既存メディアが敬遠しがちな、しかし社会的に関心の高い問題に踏み込んだ仕事も手がけ、高く評価されてきました。
そんな「ビッグイシュー日本版」が値上げを余儀なくされることになったのです。消費増税によって、社会的弱者がさらに苦境に追い込まれていく。そのことを知ってもらいたいと考えて、記事にしようと思ったのですが、実は記事を書き始める前に考えが変わりました。
「読者のみなさまへ 消費税増税に伴う雑誌『ビッグイシュー日本版』の価格変更のお願い」には、このように記載されています。
販売者からは、現在の販売者の取り分160円を10円減らしても、販売者、会社各150円とすることで現価格300円を維持しようと言う意見もありました。読者に転嫁せず買い控えによる売上減も防ぎたい、という強い意見でした。
しかし、検討の結果、4月1日号より販売価格を現行の300円から350円に改定することになりました。配分は販売者(ホームレスの方がた)180円、会社170円にするとのことです。
この記載を読んで、改めてビッグイシューを継続していくことの大変さと重要さを知りました。
これまで、雑誌を作る会社側は1冊の単価わずか140円で、これだけの内容のものを作ってきたのです。1万部販売したとしても予算は140万円。商業ベースで発行するとなると、おそらく3~5万部は売らなければ事業は成り立ちません。しかし、路上販売という限定された売り方で、数万部を売ることは容易なことではないでしょう。
広告を大量に掲載し、なおかつ1000円近い価格で販売する雑誌でさえ、発行部数1万部では採算ラインにのりません。これまで数多くの雑誌が廃刊や休刊に追い込まれてきましたが、販売価格1000円で発行部数2万部が生命線と聞いたこともあります。
ビッグイシューは、雑誌制作に関する不足分をさまざまな努力や、CSRに力を入れる企業からの支援によって穴埋めすることで、赤字経営ながら10年以上も発行を続けてきているのです。雑誌を発行し続けることによって、ホームレスの方がたの自立を支援してきたのです。
消費増税により、ホームレスの自立を応援するアイテムである「ビッグイシュー」が、雑誌を購入してくれる人たちに負担を強いざるを得ないことになったこと。このことは現実として知って欲しい。しかし、それよりもこの値上げ決定を機に、「ビッグイシュー日本版」の存在を、もっと多くの人たちに知っていただきたいと切に望みます。
報告●井上良太
「ビッグイシュー日本とは」は必読です。そのほか、最新号の内容、販売場所、各地の販売者の紹介、さらに「バックナンバー購読」の案内も掲載されています。