平成26年2月4日時点の「福島第一原子力発電所の状況について(日報)」から、新規事項(変化があった事項)をピックアップしてチェックします。
1月29日に発見され、その後1月31日から2月3日まで日報への記載がなかったトラブルについての記載が復活しました。内容は、事故等で外部電源が失われた際に電気を作る重要な役割を担っているディーゼル発電機2機のうちの1機で、燃料漏れが生じた「危険物漏えい事象」の原因についての言及があります。詳しくは後述します。
1号機(平成24年4月19日廃止)
昨日からの変化なし。
・メルトダウンしたと思われる燃料デブリを冷却するため注水を続けている。
・水素爆発を防ぐために窒素を封入し続けている。(破損している格納容器に対して)
・ガス管理システムを運転し続けている。
・使用済み燃料プールの循環冷却も続けている。
といった内容の記載。
2号機(平成24年4月19日廃止)
1号機同様の4項目。新規事項なし。昨日停止された2号機タービン建屋から3号機タービン建屋への高濃度汚染水移送についての記載は、処置そのものが行われないためまるごと削除されている。
3号機(平成24年4月19日廃止)
1号機同様の4項目に加え、「3号機タービン建屋→集中廃棄物処理施設(高温焼却炉建屋)へ高濃度滞留水を移送中(平成26年1月24日午後2時37分~)」
アンダーライン(新規事項)として、炉心冷却のためのスプレイ系(シャワーのように水を散布する冷却系)の注水量を減らしたことが記載される。
汚染水処理の負荷低減等を踏まえた原子炉注水量の低減操作として、3号機の原子炉注水について、2月4日午前10時12分、炉心スプレイ系からの注水量を約3.4m3/hから約3.0m3/hへ変更(給水系からの注水量は約2.0m3/hで継続中)。
4号機(平成24年4月19日廃止)
「原子炉内に燃料なし(使用済燃料プールに保管中)」「使用済燃料プールから共用プールへ燃料移動中」「使用済燃料プール循環冷却系運転中」
アンダーライン(新規事項)なし。
5号機(平成26年1月31日廃止)
処置の内容に変更なし。
・冷温停止中
・使用済燃料プール冷却浄化系運転中
6号機(平成26年1月31日廃止)
処置の内容に変更なし。
・冷温停止中(燃料は全て使用済燃料プールに保管中)
・使用済燃料プール冷却浄化系運転中
共用プール
処置の内容に変更なし。
・使用済燃料プール冷却浄化系運転中
水処理設備および貯蔵設備の状況
処置の内容に変更なし。
・セシウム吸着装置停止中
・第二セシウム吸着装置(サリー)運転中
・淡水化装置は水バランスをみて断続運転中
・多核種除去設備(ALPS)ホット試験中
H4エリアタンクおよび周辺排水路の状況
2013年8月19日に「発見」されたH4エリアのタンクからの水漏れ(ストロンチウム90など、β線を出す放射性物質を1リットル当たり8000万ベクレル含む高濃度の汚染水が約300トン漏えい)を受けて、同様の構造を持つタンクの監視の一環として、パトロール結果をアンダーライン付きで更新している。
※前日のアンダーライン箇所と比べて、変更がなされているのは日付のみ。
平成26年2月3日のパトロールにおいて、新たな高線量当量率箇所(β+γ線(70μm線量当量率))は確認されていない。また、堰床部に雨水が溜まった箇所については、雨水による遮へい効果により引き続き線量当量率は低い状態となっている。また、目視点検によりタンク全数に漏えい等がないこと(漏えい確認ができない堰内溜まり水内を除く)、汚染水タンク水位計による常時監視(警報監視)においても異常がないことを確認。
漏えいしたH4エリアIグループNo.5タンク周辺や、福島第一南放水口付近、福島第一構内排水路、地下水バイパス揚水井No.5~12のサンプリング結果についてアンダーライン入りで更新。
<最新のサンプリング実績>
前回採取した測定結果と比較して大きな変動は確認されていない。
※前日の記載とまったく同一。サンプリングを行った事実を示すためのアンダーライン(新規事項)だと考えられる。
1~4号機タービン建屋東側の状況
山側から管理施設、原子炉建屋、タービン建屋、港湾施設とほぼ並行している原発施設の中でタービン建屋の海側のエリアについて。本日付のアンダーライン(新規事項)は最新のサンプリング実績のみ。
※記載は前日とまったく同一。サンプリングを行った事実を示すためのアンダーライン(新規事項)だと考えられる。
<最新のサンプリング実績>
前回採取した測定結果と比較して大きな変動は確認されていない。
地下貯水槽の状況
前日の記載とくらべて新規箇所(アンダーライン表示)は、サンプリング結果のみ。
<最新のサンプリング実績>
前回採取した測定結果と比較して大きな変動は確認されていない。
福島第一原子力発電所の運用補助共用建屋1階における油漏れについて
平成26年1月29日付の「報道関係各位一斉メール 2014年」で報告されたディーゼル発電機燃料漏れの第一報。
報道関係各位一斉メール 2014年
福島第一原子力発電所の運用補助共用建屋1階における油漏れについて
平成26年1月29日
東京電力株式会社
本日(1月29日)午前10時40分頃、福島第一原子力発電所の運用補助共用建屋1階において、所内共通ディーゼル発電機(D/G)B(現在点検停止中)に燃料を供給する燃料タンク関連の機器より軽油が漏えいしていることを当社社員が発見しました。
発見後、直ちに軽油配管の弁を閉止したところ、漏えいは停止しました。
福島第一原子力発電所内の電源供給については、外部電源からの供給に加え、所内共通ディーゼル発電機(D/G)Aが待機状態であることから、問題ありません。
漏えいした軽油は、ドレンパン(約40cm×約60cm×深さ約2cm)からあふれ、コンクリート床面に約4m×約2m×深さ約1mmの範囲で溜まっています。
なお、漏えいした軽油は吸着マットにて回収を行う予定です。
本件については、午前10時51分、双葉消防本部へ連絡しております。
現在、漏えい状況および原因等を調査しております。
以 上
「所内共通ディーゼル発電機」という名称は分かりにくいが、平成25年11月17日付の日報「福島第一原子力発電所プラント状況等のお知らせ」に記載があった。
所内共通ディーゼル発電機(B)については、これまで復旧作業を進めてきましたが、平成24年12 月26 日午前0時、所内共通ディーゼル発電機(A)に加えて、保安規定第131 条に定める異常時の措置の活動を行うために必要な所内共通ディーゼル発電機として運用開始しました。
第131条
原子炉注水設備について異常時の措置の活動を行うための体制の整備として,「FS-57・CP-001 原子炉・使用済燃料プール冷却設備等の運転・保守管理マニュアル」及び「NM-51-17・1F-S1-001 福島第一原子力発電所 防火管理要領」に基づき,次の措置を講じる。
(中略)
3.(2)電気第一GMは,表131-3に定める異常時の措置の活動を行うために必要な電源車を配備し,1ヶ月に1回点検を行う。
(中略)
表131-3
設 備 関連条文 台 数
電源車 第147条 2台
所内共通ディーゼル発電機 第147条 1台
所内共通ディーゼル発電機は非常用電源
「所内共通」といわれると切迫感が感じられなかったが、要するに外部電源が失われた時に運転して、原子炉を冷却するさまざまな機器を動かすために使われる非常用電源のひとつだった。
東京電力では東日本大震災の後、外部電源2系統と電源車を2台、そして今回問題になった「所内共通ディーゼル発電機」1台を、「定数」として指定している。
所内共通ディーゼル発電機はこれまで(A)があり、今回油漏れした(B)は昨年11月に復旧したもの。非常用電源装置のトラブルなのに1月29日の第一報で、
「福島第一原子力発電所内の電源供給については、外部電源からの供給に加え、所内共通ディーゼル発電機(D/G)Aが待機状態であることから、問題ありません。」
と言い切っていたのは、定数外の装置だからなのかもしれない。
しかし、原発事故で全電源喪失した時の「定数」が、現在と同じであることは指摘しておきたいと思う。
燃料漏れの原因と再発防止対策
2月4日の日報で報告された、所内共通ディーゼル発電機(B)の原因と再発防止策は以下の通り。
その後、原因と再発防止対策をとりまとめたところ、当該燃料フィルタより軽油を採取した後の空気抜きラインの締め付け不足により、通常閉である空気抜きラインが微開な状態になっていたことが原因であった。また、当該の空気抜きラインのプラグは当該フィルタに直付けであったことから、配管系統図等に記載がなく、ライン構成時の確認管理対象外であったことと、作業範囲や工程が従来と異なっており、作業範囲を誤認しやすい状況であったことを確認した。対策として、このように機器に直付けされた弁等のうち、系統の境界を構成するものは配管系統図等に反映し、作業用管理札(タグ)の管理対象とする。さらに、配管系統図での作業範囲の確認に加え、工事工程表へ作業を指示する範囲と期間を明記して情報を共有する。作業員に対しては、作業指示範囲外の作業禁止について再周知する。
ディーゼルエンジンは運転中に燃料タンクが空になると、燃料配管に空気が入ってイグニッションを回してもエンジンがかからなくなる。そのため、燃料配管内の空気を抜く作業を行うことになる。
(ディーゼル発電機を動かしたことがある者なら誰もが知っていて当然のこと。エア抜き作業は面倒だから、運転中に燃料を切らさないように注意する)
プラグが「微開」ということは、エア抜きを試していた可能性も考えられる。でもエア抜きした後にはエンジンが掛かるかどうか確認するから、後々になって燃料がもれるような「微開」は考えにくい。
所内共通ディーゼル発電機(B)の燃料配管がどんなに複雑だったのかはわからない。しかし「作業用管理札(タグ)の管理対象とする」「配管系統図での作業範囲の確認」「工事工程表へ作業を指示する範囲と期間を明記して情報を共有」「作業指示範囲外の作業禁止について再周知」という対策はあまりにも仰々しい。
点検中に起こった「事象」なのだから、点検箇所の再確認と明確化、情報共有のための記録を必ず残す。程度でいいようなものだが。
非常に気になるのが「作業員に対しては、作業指示範囲外の作業禁止について再周知する。」との最後の一文だ。まったく未経験な作業員をマニュアルだけで動かそうとしているのか、あるいは現場知識の乏しい管理者が、信用できない現場作業員に指示して作業を行っているのか、そんな状況が目に浮かぶ。
いずれにしろ、きわめて危険な状況だと感じる。
以上、「福島第一原子力発電所の状況について(日報)」平成26年2月4日分の変更箇所についてピックアップしました。
構成●井上良太