東北、この一枚。(12) 一瞬の双葉駅

あっ、あの看板はここにあったのか!

「原子力 明るい未来のエネルギー」。
裏面には「原子力正しい理解で豊かな暮らし」と記されている。

旧警戒区域をめぐるバスツアーで、立ち入りが規制されている双葉町に入った。駅近くの仮設トイレでのトイレ休憩というごく短い時間だったが。

その昔、福島県の沿岸部は、夜ノ森以北、相馬氏領(標葉郡:しねはぐん)と夜ノ森以南、岩城氏領(楢葉郡)とされていた。ふたつの葉の間にあることから、双葉と呼ばれるようになったのだとか。

駅舎に掲げられた時計は、2時45分を少し過ぎたところで止まっている。
双葉駅は津波の被害を免れている。時計が止まったのは3月11日2時46分の地震の揺れのためだろうか。

駅舎入り口脇に散らばったペットフード。
隣に転がっているプラスチックのケースは、伏せて雨除けにしようとでもしたのだろうか。そう考えると穴の意味も理解できる。

立ち入りが制限され、人影を見ることはなかった双葉駅だが、誰かがこの場所にいまも暮らす小さな生き物のことを思いやって訪れているらしい。

ほんの数分の滞在だったが、ツアー参加者は線量を気にしていた。
多くの人は線量計とカメラを持ってバスを降りたようだ。
コンクリートの水抜き穴に突っ込まれた線量計もあった。

現在では盗難の危険度は低いだろう。
もっと別のことを用心しなければならない双葉町になってしまっている。

JR双葉駅

東電の原発から約4.2km

●TEXT+PHOTO:井上良太