いよいよ年末年始、今年も残すところあとわずかです。この時期になると、地元でゆっくり羽を伸ばそうと考える人もいれば、どこか遠出をして越年なんて人もいますね。
全国の島々でも、年末年始は帰省や観光客で活気が増します。中には島特有の行事が催される島もあり、ひと味違った越年が楽しめたりするのです。今回はそんな“島ならでは”のイベントや行事を紹介します。
甑島「トシドン様」
「なまはげ」とそっくりな伝統行事
秋田県の男鹿市で行われる「なまはげ」をご存知の方は多いと思います。「悪い子はいねがー」「泣ぐ子はいねがー」という決まり文句は有名ですよね。大晦日、包丁を持った鬼が怠け者をこらしめるものですが、現代では主に各家庭の子供への“しつけ”の意味が込められています。子供たちが良い子に育つようにと期待を込めた伝統行事なのです。
実は、この「なまはげ」とそっくりな伝統行事が下甑島(しもこしきじま)にあります。それが、同じく大晦日に行われる「トシドン様」です。 下甑島は東シナ海に浮かぶ鹿児島県薩摩川内市の離島。上甑島、中甑島、下甑島と3島が並んでおり、人口は3島合わせて6000人前後。それぞれ海水浴や釣りがさかんで、夏には鹿の子ユリやハイビスカス、ブーゲンリビアといった南国の草花が咲き誇ります。
トシドン様は大晦日の夜、下甑島の各家庭を回る鬼です。首切り馬という首の無い馬に乗り、天界より現れるとされています。馬から降りると、「トシドン様」(に扮した人々)は、先導役である中学生に導かれながら、「ダーダー」と声をあげて歩き、3~8歳の子供がいる家庭を目指します。
「空から全部見とるぞー!」
家の前に到着すると、(周囲の人が)ドラム缶や鈴などを鳴らしながら、トシドン様が進入。だいたいの子供たちは顔を強張らせながら出迎えるようです。藁で作ったみのをまとい、緑がかった顔面に長い鼻、まさに鬼という形相ですから、子供たちもさすがにビビってしまうのでしょう。
トシドン様は子供たちの日ごろの行いに対し、まずはしかりつけます。これの素晴らしいところは、闇雲にありきたりな言葉で叱りつけるのではなく、子供一人一人に応じた叱り方をする点でしょう。そして、「空から全部見とるぞー!」と一喝。もちろん、見知らぬ鬼がなんでも知っているのは、事前に親が鬼役の男性に伝えているためですが、子供にすればワケがわからないはずです。 しかし、散々叱ったあとはきちんと褒めるのがトシドン様です。良い所はきちんと褒められるため、叱られたことも含めて、来年は良い子でいようと思うわけです。
そして最後は歌を歌わす、(親にしている)お手伝いを発表するなどし、「来年は(来年も)良い子にする」と約束。トシドン様は子供たちに背を向けさせ、年餅と呼ばれる餅を子供たちの背中に乗せて去ります。これが下甑島で代々行われてきた「トシドン様」なのです。
地域ぐるみで子供たちを大切にする
代々受け継がれてこそいるものの、なぜこのような祭が下甑島に伝わったのか、詳しいことはわかっていません。「なまはげ」と類似点が多いことからも、何か関連していると考えられていますが、そのルーツもはっきりとはしていないようです。
3島の中では面積・人口共に最大の下甑島ですが、とは言え、島は小さなコミュニティにすぎません。ひとつの集落に対して、対象となる子供は数人程度。子供がおらず、「トシドン様」が行われないこともあるようです。それだけに、地域ぐるみで子供たちを大切にする意識が強いのでしょうか。「なまはげ」は、言うことを聞かない子供たちを怖がらせることが主眼に置かれていますが、トシドン様は時にじっくりと話をすることもあるそうです。 今では同じく鹿児島の離島である種子島でも同様の行事が行われています。こちらは、甑島より種子島へ移住した島民が、甑島を懐かしんで伝えたそう。「トシドン様」も「なまはげ」も、こんな感じでどこかから伝わったのかもしれません。こうして伝統は受け継がれていくのでしょうね。