新・マッチ売りの少女~もう一つの昔話~

むかしむかし、雪の降りしきる大みそかの晩。みすぼらしい服を着たマッチ売りの少女が、

寒さに震えながら、通る人に一生懸命呼びかけていました。

少女「マッチは、いかが。誰か、マッチを買ってください」

誰も立ち止まってくれません。

少女「お願い、一本でもいいんです。誰か、マッチを買ってください」

一本も売れないマッチ。でも少女は帰ろうとしません。マッチが売れないまま家に帰っても、お父さんは家に入れてくれません。

それどころか、「この、役立たずめ!」と、ひどくぶたれるのです。

少女は寒さを避けるために、家と家との間に入ってしゃがみこみました。それでも、じんじんとこごえそうです。

少女「そうだわ、マッチをすって暖まろう」

そう言って、一本のマッチを壁にすりつけました。シュッ!

マッチの火は、とても暖かでした。少女は勢いよく燃えるストーブの前に座っているような気がしました。

少女「なんて、暖かいんだろう・・・ああ、いい気持ち」

少女がストーブに手を伸ばそうとしたとたん、マッチの火は消えて、

ストーブもかき消すようになくなってしまいました。少女はまた、マッチをすってみました。

光が壁をてらすと、今度は部屋の中にいるような気持ちになりました。部屋の中のテーブルには、ごちそうを食べている人が沢山います。

少女「うわっ!美味しそう!」

そして、部屋のテーブルには大量のマッチ箱が積まれており、

目の前にはホワイトボードが置かれ、ピラミッドのような図が描かれています。その中で一番金持ちそうな男が、図を指さしながら語り始めました。

金持ち男「マッチを一箱売るごとに、あなたの口座に5ドル振り込まれます。マッチの代金は一箱10ドルですから、その半分がバックマージンとして返ってくるのです」

少女「なんてこと・・・一箱で5ドル貰えるなんて、なんておいしい商売なんだろう・・・」

少女は金持ち男に心が惹かれ、夢中で話に聞き入りました。

金持ち男「さて、ここからが面白いところ。マッチを売った相手が、そのマッチを他の人に転売した場合、何をせずとも更に4ドルのマージンが口座に振り込まれるのです」

少女「えっ?誰かがマッチを売るだけで、お金が手に入っちゃうの!?」

金持ち男は語気を強め、まくし立てるように話を続けます。

金持ち男「そして、その2人目が3人目にマッチを売った場合、更に3ドルの報酬が手に入るのだ!」

在庫を抱えずとも、人から人へマッチを転売するだけで不労所得が得られると言うのです。

少女「すごい!なんて画期的なシステムなんだろう!」

金持ち男「4人目で2ドル、5人目で1ドル・・・最大で5人目までマージンを得ることができる!」

少女「そうなると・・・一箱で最大15ドルの儲けが出るんだわ!なんてうま味があるんだろう!」

金持ち男「この商法を『マルチマッチマーケティング(M3)』と呼ぶ。ただし、6人目以降へ販売する場合、連鎖取引法に引っかかるので・・・」

金持ち男が最後に何かを言いかけたとき、マッチの火は消えてしまい、部屋も男も消えてしまいました・・・

少女「やった!これで私は大金持ちだ!もうお父さんに殴られなくてすむんだわー」

少女は目を輝かせて、街角に出ると再びマッチを売り始めました。

少女「マッチはいらんかねー、マッチ・・・いや、マルチはいらんかねー!」

もはや少女はマッチを売るのではなく、ビジネスを売る方向に仕事を転換していました。

通行人「なに、マルチ?なんだねそれは、新しい商品か?」

今までマッチに見向きもしなかった通行人が、物珍しそうに立ちどまります。

少女「いえ、商品を売っているのはなく、私はビジネスを紹介しているんです」

通行人「ビジネス?何やら怪しいな・・・どんな商売なんだ?」

通行人の紳士は、不審そうな表情を浮かべますが、興味津々の様子です。

少女「本業だけで食べるのは大変でしょう?これからは副業が鍵を握る時代ですよ」通行人「ふむふむ、なるほど・・・確かにそうかもしれないな」

少女は言葉巧みに通行人を勧誘し、マルチマッチマーケティング(M3)の魅力を語ります。

通行人「うーむ、なかなかすごい商法だな・・・よし、マッチを一箱買ってやろう!」

少女「ありがとうございます!一箱10ドルになりますが、簡単にペイできますから」

通行人は満足そうな表情で、その場を去っていきました。しばらくすると、この噂は街中に広がり、マッチ箱はあっという間に売り切れました。

その翌月・・・

少女の銀行口座には大量のお金が振り込まれ、一気に億万長者となりました。

少女「私、遂に大金持ちになれたんだわ!これで不労所得がガッポガッポ・・・」

ドンドンドンッ!そのとき、少女の家のドアをけたたましく叩く音が鳴り響きます。

少女は慌ててドアを開けると・・・恐い顔をした警察官が立っていました。

警官「あなた、マッチ売りの少女さんですね?」少女「はい、私がマッチ売りの少女・・・いや、マルチ売りの少女です」

少女の言動に対して、警官は怒気を強めて言いました。

警官「そのマルチの件で、あなたに逮捕状が出ているんだ!」

少女「えっ!た、たた・・・逮捕状!?」警官「詳しい話は暑で聞こう。午前10時26分、無限連鎖講容疑で逮捕する!」

腕に手錠がかけられ、牢屋に入れられてしまうマッチ売りの少女。

少女「なぜ・・・?私が・・・私が一体何をしたと言うの?」

少女は知りませんでした。マッチの火が見せた金持ち男の最後の言葉を・・・

金持ち男「6人目以降へ販売した場合、連鎖取引法に引っかかるので注意すること。5人以上の支配下を作れば無限連鎖になる危険がある。ネズミ算式に会員数が増えると12人目で国の人口を上回っててしまい、ビジネスモデルが崩壊してしまう。1人につき5人まで。この鉄則破ったものは天罰が下るだろう・・・」

法令を破ってしまったマッチ売りの少女に、天罰が下ってしまったのです。

その後、少女は多額の保釈金を払って家に帰宅しました。

お父さん「この親不孝ものがー!!」

マッチ売りの少女は、マッチが売れない時の10倍くらいお父さんにボコボコにされました。

おしまい