テレビ東京のドラマ「きのう何食べた?」が人気です。
ゲイカップルの同棲生活を描いたドラマで、あの男臭い内野聖陽さんが演じる「ケンジ」の一挙手一投足が「かわいい」「神キャスティング」と称賛されていますし、西島秀俊さんが演じる恋人「シロさん」が作る手軽でおいしい料理が毎回話題になっています。
この「きのう何食べた?」を含めて、筆者はここ数年ほぼグルメドラマばかり観ています(海外ドラマは猟奇殺人ものと復讐ものばかり見ています)。
ざっと挙げてみると「侠飯(おとこめし)」「極道めし」「めしばな探偵タチバナ」「ワカコ酒」「居酒屋ぼったくり」「目玉焼きの黄身いつつぶす?」。
当然ながら面白いのもあればそうでもないものもあります。個人的には「深夜食堂」が大好きです。主題歌からもビシビシ感じられる「夜の新宿の狭い路地」な世界観がたまりません。ずーっと観てられます。
わかりやすい共通点
ここまでに挙げたグルメドラマには共通点があります。それは「マンガが原作」だということです。
そんな「グルメマンガ・料理マンガ」はいつからあるのでしょう?その歴史を調べてみると、起源は1970年に遡ります。
Wkipediaによれば、昭和の古い世代には「ワイルド7」でおなじみの望月三起也さんによる「突撃ラーメン」と、一ノ木アヤさん原作で作画担当が巨匠・萩尾望都さんの「ケーキ ケーキ ケーキ」。この2作が料理マンガの始まりとなっています。このぐらい古いとさすがに筆者も読んだことはないです。
遅れること3年、1973年の週刊少年ジャンプに登場したのが「包丁人味平」。三枚におろされて骨だけになったタイが水槽で泳ぎだすシーンは忘れられません。
そこから10年を経て「美味しんぼ」が連載開始。グルメマンガブームにとどまらず「グルメブーム」を巻き起こした革命的な作品ですね。海原雄山がただの傲慢ジジイだった初期は話がシンプルで面白かったなあ。
そのあと「ザ・シェフ」「クッキングパパ」らが相次いで連載開始。そこから先は実にいろんなジャンルのいろんなグルメマンガが各誌で人気を呼びます。
実はすでにあった
それらのマンガはほぼすべて「料理対決」「料理人の生き様」「アイデア料理やレシピ」を表現したものでした。
それに対して筆者が先に挙げたドラマの中で「めしばな探偵タチバナ」「目玉焼きの黄身いつつぶす?」などはチェーン店のメニューやインスタントラーメンを始めとする市販品、そして家庭料理に対する「個人的な(しかもくだらない)こだわり」をひたすら追い求めていくものです。
このような「変化球」的なグルメマンガは、超高級からジャンクまであらゆるグルメが出揃った今の時代だからこその作品なのでしょうか?
いえいえ、実はそんな「小さなこだわり系グルメマンガ」は意外にも古く、1981年に登場しています。今はなき雑誌「ガロ」に掲載された「夜行」というマンガです。
トレンチコートに身を包んだ男が夜行列車の中で開いたのはごくありふれた駅弁。このハードボイルドな男が弁当の中身をどんな順番で食べようか死ぬほど悩む、という短編です。
作者は泉昌之さん。これは作画を担当する「泉」晴紀さんと原作担当の久住「昌之」さんの名前を組み合わせたものです。
この「夜行」を収録した単行本「かっこいいスキヤキ(1983年)」の中には一緒に鍋を囲んでいる友達の「スキヤキの食べ方」について「これだから田舎モンはイヤだぜ!」「さすが東京育ち」と心の中でつぶやく主人公を描いた表題作も。「食べ物に関してくだらないことにこだわりぬくマンガ」はここから始まったといいでしょう。
グルメドラマブームも作った
原作担当の久住昌之と言う名前に見覚えのある方もいらっしゃることでしょう。そう、久住昌之さんは「孤独のグルメ」の原作者(作画は故・谷口ジローさん)。さらにあの印象的な劇中BGMを担当するバンドのメンバーでもあります。
いまや海外でも人気の「孤独のグルメ」も、知らない街の知らないお店に1人で入った腹ペコ男性が、何を食べようか、どうやって食べようかを模索しながらひたすら心の中でつぶやくだけのドラマ。松重豊さんの「顔の演技」が素晴らしいですね。
「夜行」からの「小さなこだわり」をちゃんと受け継いだこの作品が「庶民派グルメドラマ」の火付け役であり、今でも主役であるわけです。
「夜行」から35年以上。筆者にお弁当を食べる時のこだわりがあるとしたら「好物で始まって好物で終わりたい」ぐらいしかありません。
だから鶏の唐揚げとほんのちょっとのポテトサラダしか入っていない唐揚げ弁当なんか最高です。何も考えないで食べてます(*^-^*)