どうしよう、頬の筋肉がゆるみっぱなしで元に戻らない。うつくしくて、かわいらしいおひな様や人形に囲まれて桃の節句を楽しんだ。
当たり前ですが、作品はぜんぶ手作りです
ここは陸前高田市気仙町のにじのライブラリー。被災した今泉天満宮の境内に設置された図書室だ。今日は年に一度の展覧会。この場所で毎月1回集まって手芸を楽しんでいる「ハヤケーズ」のお母さんたちのほっこりした手芸作品が、図書室いっぱいに並べられた。
まずは、ハヤケーズのお母さんたちによるおひな様を写真でお楽しみください。
おひな様もうつくしいのだけれど、注目してほしいのは屏風の代わりに背景に飾られたパーテーション。薄絹の中に花が挟み込まれていて、春のぬくもりが伝わってくる。
つるし雛に飾られた鳩は匂い袋。
小さなうさぎのおひな様。
作品の1つひとつに、つくった人の指先のぬくもりが感じられる。そう、ここに並ぶ作品はすべて手作り。ひと針ひと針、ていねいに作りあげられたもの。ひと針ひと針、手を動かしながら、おしゃべりしたり、笑い合ったりして作りあげられたもの。ひと針ひと針の手の動きの中で、「こうしたらどうかな?」と浮かんできたアイデアを、工夫しながら形にしていったもの。
同じテーマでつくられた作品でも、作り手によってみんな表情が違う。凝縮された作り手の思いや工夫が、まるでオーラのように伝わってくる。
思わず、「わぁ」「わぁ」と感嘆の声がもれてしまう。
窓の外には、かさ上げ工事の車両専用道路が見えたりもするのだが、この空間にはあたたかな春の日差しが溢れていた。あったか過ぎるくらいに。
わき上がっていく思いは恋?
ハヤケーズの手芸活動は毎月1回。メンバーはみなさん主婦として家庭を守っているから、活動は月1回が限界なのだとか。
月に一度の手芸の日、ハヤケーズのみなさんは、毎月季節感に溢れる作品をつくることになる。といっても、1月に来シーズン用のハロウィンのタペストリーをつくったり、2月にクリスマスリースをつくったりと、プログラムはかなり先取りしたものだったりもするようだが。
桃の節句に合わせて開催される展覧会だから、展示の中心となるのはおひな様だが、会場には毎月の活動の成果も並べられていた。それがまた素晴らしい。
端午の節句のつるし飾り。渋い布地の鯉や矢車などなど。三番叟の表情がまたいい。
つるし飾りの鯉のぼりには金太郎さんも。アイデアだよなぁ〜
七夕飾りのベースは帯。帯を掛け軸のようにするという発想自体素晴らしいのだけれど、この作品にはさらに工夫がある。竹の飾り物は小さなフックで留められているから取り外せる。TPOで七夕飾りを正月飾りに付け替えることだってできるのだ。
秋の名月とうさぎさん。かわいい~と声が出てしまいそうになる。
クリスマスリースは地元で採った松ぼっくりを使用。オーナメントは40年前のものを再利用したのだそうだ。
一点、一点たのしみながら見て回って最後のコーナーで完全にとろけてしまった。もう、頬の筋肉はゆるみにゆるみ、かわいい~、かわいい~と声が出てしまうのをもうどうにも止めることができない。
完全に気分は乙女。
針が振り切ってしまえば、男性だって乙女チックになってしまうのだと知った。
ハヤケーズのみなさんは、月に1度、にじのライブラリーに集まって手芸に没頭する時間を楽しんでいる。年齢的にも主婦として家庭をしっかり守らなければならないから、集まれるのは月に1度だけ。
窓の外の工事車両専用道路には、ナンバープレートもない、鉱山なんかで使われる大型オフロードダンプがひっきりなしに行き来する。ここは復興工事のど真ん中。気仙町は陸前高田の中でも工事が遅い地域だから、手芸に集まるハヤケーズの人たちもふだんはきっと大変な毎日を送られているのだろう。
でも、だからこそなのかもしれない。ハヤケーズの人たちの作品にとびっきりのぬくもりが溢れているのは。
ハヤケーズのみなさんの作品を集めた「第5回 ライブラリーdeひな祭り」は3月5日(日曜日)まで開催されている。