会社でのお昼休み、ブヨとアブが話題になった。週末にバーベQに行ってきたベテラン社員がブヨにやられた……ってカミングアウトしたのが発端だったのだが、その途端、自分の知ってることを語り始める人、方やネットで検索してる人、なかなかさすがにIT企業ならではの光景だった。
なーんて斜に構えていては、ブヨにやられた先輩社員にも申し訳ないわけで、自分も知ってることを一緒に語らっていたんだけれど、ちょっと意外だったのは、ブヨってアブじゃないの? とか蚊とどこが違うの? という意見が多かったこと。
なので老婆心ながら、ブヨとアブについて、経験的に知っていることを書き留めておこうと思った次第なのであります。
ブヨは小さくて分かりにくい。知らない間にやられることもある
ブヨはブユとかブトとか漢字で書くと蚋とか、地域によって呼び名も多いし、必ずしも同じ昆虫の被害を示しているとも思えない報告もある。
否定的見解を申し述べた上で引用するのも何だけど、Wikipediaに記載されているブヨは、そのごく一部について述べているだけのように思う。
若い頃に沢登り(沢伝いに山を登るサバイバル的色合いもある登山)をしていた頃、ブヨは夏の沢ならどこにでいてもおかしく昆虫だった。しかも、人によっては行動不能に落ちるほどのダメージをもたらすやっかいな害虫だった。
ブヨに関して最も腹が立った経験は、4月の初め頃、もうさすがに沢水もぬるくなってきたと思って登った丹沢山系の沢での被害。小さな滝が連続する沢を上り詰め、もう目前に山の稜線も見えるところまで登ってきて、ちょっと一休みして靴を履き替えようと、沢登り用のウエーディングシューズから下山用の運動靴に履き替えるほんのわずかの間のことだ。その休憩ポイントがとってもいい雰囲気の場所であったのだ。
見上げた空を遮る木々の葉は、南関東の山とは思えないほどに初々しい新緑で、そこから差し込んでくる日差しが前の年の落ち葉の上に風に揺れる無数の日だまりを映し出している。人気登山スポットの丹沢とはいえまだ春浅く、しかも沢ルートから稜線に突き上げたこの辺りは、登山道の喧噪からも遠く離れていた。
微かな梢の音を聞きながら、靴を履き替える途中、裸足でついごろごろしてしまっていた。その行動はとっても自然なものだと自分では感じていた。
で、下山を始めた時から足首の辺りが痒くて仕方がない。しばらく下ったころには、痒い方の足を反対側の靴で引っ掻きながら、うげうげ変な声を立てていたもんだから、仲間のMさんが「どしたの?」。「痒くて死にそう」。「ちょっと見せてみ」。「なにブヨなんかにやられてるんですか〜。ダメじゃないですか〜。今日は南アルプスの沢に行くための最初の訓練登山なのに〜。そんなこっちゃパーティー失格ですよ〜」と、いきなりまるで死の宣告を下されてしまった。
ブヨにやられたところは、なだらなか火山みたいな腫れ方をしたその頂上のところに、ポツッと極々小さな血の塊のようなカサブタができる。それが痒いからってかき崩すや腫れはあっという間に広がって手に負えない状況に。とくにブヨは小さくて、噛まれたことが分かりにくいので、自分の例のように靴を履き替えるちょっとした間なんかに集られると、たとえ小さめでも腫れのネットワークみたいになって、噛まれた部分の全体が腫れ上がる。
サブリーダーのMさんからダメ出しされた時、自分の役目はリーダーだったわけで、何とも申し開きのしようのない仕儀となってしまったのでした。
(その年の夏山合宿登山では、チーム編成を組み替えて、別チームの一応はリーダーとして沢登りを行なったが、途中でやっぱりブヨ被害に……あららダメリーダー)
◆教訓◆
・ブヨは小さくて分かりにくい
・ブヨは少々寒い時期、場所でも発生する
・ブヨに噛まれると、とんでもないくらい痛痒くて、時間とともに熱までもって周辺が腫れ上がる
◆対策◆
・残念ながら後述のアブと違って、どこで発生しているのかどうかは分からない。どんな場所ででも、たとえとっても寒冷な北アルプスの山頂近くの沢でさえ発生することがある。
・防御策は、長袖・長ズボンなど、夏でも体をカバーする衣類を身に着けるくらいしかない。(虫除けスプレーが効かなかったという話もよく聞く)
夏山遊びの小さな外敵横綱級、もう一方のアブは?
アブはですねえ、被害のデカさからいうとブヨの数倍、数十倍。とってもやっかいですよ。血を吸う昆虫としては都市部では蚊がもっともメジャーですけど、山の方のとくに川沿いに行くと、蚊に加えていろんな種類の吸血昆虫が出現するようになる。そのひとつが先にお話ししたブヨで、それ以上に被害甚大でやっぱり渓流部に多く生息しているのが吸血性のアブなのです。
ブヨは見た目は蚊よりも小さい種類もいるくらいです。でもアブで吸血する奴らはデカイ。全体が緑灰色で凄みすら感じさせるウシアブは、人間のみならず牛の巨体にも集るくらいですからね。そうですウシアブも人を噛むことがよくあります。
さっきからアブやブヨは噛む、蚊は刺すといっていますが、それはそれぞれ血を吸うための口器の形が違っていて、蚊は細い針金を何本か束ねたような針のようなもので皮膚の深くから血を吸いますが、アブやブヨは、ヤスリのような歯で人間の皮膚の表面を齧ったり削ったりして、そこから漏れ出てくる体液を吸うのです。
きゃ〜、イヤですね。蚊が吸血鬼ならアブやブヨは小さくともジェイソンみたいな奴らだということなのです。
で、アブをどうすれば防げるか、ですよね。
どこに、どんな時期に出現するか分からないブヨに対して、アブは発生する時期や場所がある程度定まっています。ブヨも血吸いアブも発生する場所は渓流沿いがほとんどですが、アブは決まった沢に発生する傾向があります。(あ〜、とはいえ登山者の経験でしかありませんから、確約は出来ませんけどね)
新潟の阿賀野川水系やお米の名産地魚野川水系には、夏に川遊びが盛んな沢がいくつもありますが、いずれもアブが大量に発生する地域でもあります。この辺で問題になるアブは、人を襲うアブはウシアブほどは大きくなく、色合いも花の蜜に集まるハナアブの模様を白黒に変えたような感じの奴らで、この地方ではメジロアブと呼ばれています。
こいつらにやられると、体質にもよりますが、酷い時には1カ月くらい腫れが引かないこともあります。特に膝、踵、肘あたりをやられると、腫れのせいで身動きがとれなくなることもあるほどです。しかも指先とか耳介あたりでも所かまわず噛み付いてくる。だからメジロアブはやっかいなんですう。
でも、アブへの対策はあります。沢筋ひとつで発生の度合いが違うので、地元の人に事前に、あそこの沢はアブ出てないですかとか、アブが危なくない場所はどこですかとか尋ねれば、地元をよく知ってて親切な方ならちゃんと教えてもらえます。このアブは新潟ばかりでなく、東北全域にいるようです。もしかしたら中部地方や関東、奥秩父や丹沢あたりの山間部でも、水温や気温の条件が似通った場所なら、同類がいるのかもしれませんから要注意。
新潟や山形あたりの沢の場合は、人間が、お~、ここはヒンヤリして気持ちえーってなとこほど、実はアブがいっぱいいたりもするんで要注意ですが、まずは地元の方からの情報です。仲よくなって聞き出すことが、身を助けるってことですね。
あと対策って程ではないけど、もうひとつは、アブはブヨよりデカイってことですね。飛んでるアブを見かけたらすぐに長袖長ズボンとか、とにかく皮膚の露出を抑えることが肝心です。車の中にも入ってきますから、「ここはバーベQするのに良さそうな感じだなあ」て窓を開けたとたんに、こっそり入って来たアブに、家族全員が被害を受けるということだってあるのです。
そうだ、もひとつ思い出しました。秋田の乳頭温泉、ここもアブが酷く出るんです。温泉、しかも露天に入ってるときなんて、人間まる裸で防ぎようもねえでっしょ。でもね、露天風呂には何本も「ハエ叩き」が置かれてるのです。池や水溜まりの上をトンボが飛び回るみたいにアブがやってくると、手慣れた常連のお客さんが「パシ!」。それを見ていた中学生くらいの子でも、周りのみんなから「大丈夫け?」なんて言われながらも、「ボク、剣道やってますから」とか言って、パシッ!
ブヨもアブも難儀この上なし
ハエ叩きよろしくアブもブヨも全部叩き落とせれば憂いもないわけですが、アブでもメジロアブの類いは、体にすっと止まってきて、ほとんど何も感じさせずに人間の皮膚をガリガリやって体液を舐めて飛び去っていくような輩です。
予防のためには、強力な防虫スプレーとかも有効なのかもしれませんが、たとえばバーベQに来ているのに、毒になるスプレーを体に散布するのって、やっぱりちょとイヤですよね。それに、スプレーは効かないという声も多いし、自分の経験上もあんまり役には立たないというのが本音です。
できるだけ事前に情報をとって、アブやブヨが大量発生していない場所を選んで遊ぶとか、最悪被害にあったとしても、1カ月寝込むことはないというくらいに耐性を高めておくとか(抗原抗体反応が効くかどうかは分かりませんが、山に行っているうちに少々のブヨ、1,2カ所のアブ被害なら、多少は自分で自分をごまかせるようにはなれるとは思います)、総合的な対処でいくしかないのかなあと思うのです。
だって、昔の人たちは今の私たちよりも、ずっとたくさんブヨやアブにやられて、痒いよう、痛いようってやってきたんですから。
でもやっぱ、ブヨもアブも大嫌い。
てなわけで、何の役にも立たない話で失礼致しました。
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