7月16日、福島県の太平洋沿岸は激しい雨に見舞われた。第一原発から約10kmの距離にある気象庁のアメダス観測ポイント「浪江」の記録によると、
7月16日の降水量合計は137.0mm 1時間最大29.0mm、10分間最大9.0mm
気温は最高 24.0℃、最低 21.2℃ 日照時間 0.0
最大風速 3.6 南南東 最大瞬間風速 5.7 南南東
この猛烈な雨の中、福島第一原子力発電所構内では、地下水などの放射性物質の濃度を調べるためのサンプリングと測定が日々、実施されている。
ところが、16日の豪雨時のサンプリングについては疑問もある。
H4エリアでは、隣接する計測ポイントで採取したりしなかったり
ちょっと見にくいかもしれないが、東京電力が発表した下の資料を見てほしい。H4エリアは2013年8月に全ベータなどの線量が非常に高い汚染水を漏洩した場所で、その後、地中への汚染の拡大等を調べるために、継続して地下水等の測定が行われてきた。7月16日は激しい雨のため「悪天候により採取中止」となったことを示す「※」が記されているが……
その一方で、資料をよく見るとサンプル採取を実施した場所もある。下に青と赤で色分けしてみた。
青で囲んだサンプリングポイントは「採取せず」。赤で囲んだ2カ所は「悪天候にも関わらず採取」した場所だ。それ以外は、もともとこの日のサンプリング予定になっていなかったことを示す斜線が引かれている。
それぞれどんな場所なのかと地図上で調べてみると、意外なことに気づく。
繰り返すが、赤はサンプルを採った場所。青はサンプル採取を行わなかった場所。すぐ近くだ。赤だけ採って青では採らなかった理由は何なのだろうか。
同様にタンクからの汚染水漏洩事故を起こしたH6エリアという場所でも、継続したサンプル測定が行われているが、こちらは3カ所あるサンプリングポイントとも、採取せずだった。1500mmに迫る大雨だからサンプルを採るだけでも大変危険だったのかもしれない、とも考えてみた。
それでも解せないのだ。なぜなら、H4やH6エリアは35m盤と呼ばれる丘の上の平地で地形的には比較的安全な場所だと考えられる。
ちなみに、H4エリアで最近高い濃度が検出されているのは、E-1とE-9の全ベータだ。16日にはその2カ所ともが「採取せず」。一方、1週間ほど前までトリチウム(三重水素)の高濃度が続き、ここ数回の計測で大幅に低下したE-10では豪雨の中でサンプル採取が実施されている。
しかも、もっと地形的に危ない場所でサンプル採取が実施されているのだ。
岸壁では「採取せず」、海の上では「採取実施」
7月17日に発表された「福島第一港湾内、放水口付近、護岸の詳細分析結果」には興味深いデータが掲載されている。護岸の地下水(資料の2/5)では、7月16日の採取が中止されているのに、同じ日に海水の採取(資料の5/5)は行われているのだ。しかも港湾中央など船で採取する場所でも実施されている。
「K排水路」での測定の謎
原子炉建屋周辺のサブドレン水を海に流すことについて、漁協への協力要請を行っていた矢先に発覚した、K排水路での汚染水流出の隠蔽。その後、K排水路に関連する汚染水漏洩が数次にわたり発生し、K排水路は「鬼門」とも言うべき設備になっている。
そんなK排水路では、7月16日にもサンプリングが行われ、その分析結果がイレギュラーな形で発表された。
イレギュラーな形と指摘するのは、本来ならデータが発表される7月17日は数値が公開されず、日報では、さらなる太平洋への溢水とあわせて以下の発表だった。
<最新のサンプリング実績>
今回の分析結果については、7月16日採取した水の分析結果(セシウム134、セシウム137、全ベータ値)が前日の分析結果よりも上昇しているが、強い降雨の影響により一時的に上昇したものであると判断している。
また、港湾口連続モニタの値については、有意な変動は確認されていない。
引き続き、監視を継続していく。
なお、K排水路の排水については、同排水路内に堰を設けて、移送ポンプを設置し港湾内に繋がるC排水路へ移送しているが、7月16日午前8時24分頃、移送ポンプは全台正常に稼働しているものの、移送ポンプの移送量を超える強い降雨の影響により、K排水路に設置した堰から外洋側にも一部排水されていることを確認。7月16日午後8時10分頃、稼働していた8台(全台数)の移送ポンプが6台に切り替わったことから、この時間に一部排水が停止し、通常の排水状態に戻ったものと考えている。
降雨によって地下水の放射性物質濃度は上昇することがあるようだ。東京電力ではほんの数mm程度の雨でも「悪天候のため」という理由でサンプリング中止するケースがある。ここ数カ月はかなり多い。
さらに、K排水路についてはサンプルを採取する機械と、人手による採取が併用されており、機械採取の場合は高い数値が出る傾向にある。今回の採取が機械によるものなのかどうかは、この発表では示されていない。
サンプル採取の条件を一定にしなければデータの信頼度は確保されない
150mmにも迫ろうという豪雨の中で作業をされている作業員の人たちには頭が下がるばかりなのだが、上記のようなサンプリング採取の中止事例についてあわせて考えてみると、サンプルの採取や分析が恣意的に行われているのではないかと、どうにも腑に落ちない面も多いのだ。
原発からの汚染物質の流出がないようにモニターするのがサンプリング調査の目的だ。結果として出てきた数値によって東京電力が銀行からの融資が受けにくくなるとか、世間のバッシングに晒されるなどということは二次的問題にすぎない。いやむしろ、データを完全にオープンにして、事故原発の収束を国民の問題として開いていくことによって、むしろ東京電力への理解も深まるのではないか。
どんな事情があるのかは分からないが、何かを隠している、あるいはコントロールしているのではないかという疑念を与えることの問題を、しっかり考えていただきたい。