10月7日、うれしいニュースが飛び込んできました。2014年のノーベル物理学賞に赤崎勇さん(名城大学大学院教授・名古屋大学特別教授)、天野浩さん(名古屋大学大学院教授)、中村修二さん(カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授)の3人が選出されました。
受賞者のみなさんにお祝いを申し上げたいと思います。
ノーベル賞というわけですから、3人に賞が「プレゼント」されるわけですが、見ようによっては、彼らが発明や実用化を通して人類に高輝度青色発光ダイオードをプレゼントしてくれたことに対する返礼として、賞がプレゼントされるのではないか。そんな見方について少しだけ。
大都市のエネルギー消費が、辺境の明かりが変わる
高輝度青色発光ダイオードが人類への偉大なプレゼントだといことに異論がある人はないでしょう。高輝度青色発光ダイオードの発明によって実現されたLEDの明かりは、いわゆるエジソン電球(白熱電球)や蛍光灯に比べてはるかに少ないエネルギーで世界を照らしています。世界中の大都市でのエネルギー消費低減はすでに動き始めています。
のみならず、途上国や電力設備の乏しい辺境の地に明かりを届ける上でも、LEDの明かりは大きなメリットがあります。大きな容量の巨大な発電施設や大規模な送電網がなくても、太陽光や風力発電とバッテリーを組み合わせることで明るい夜を実現することが可能になったのです。
21世紀の明かりと呼ばれるLED照明の普及に触発されて、小電力で駆動する様々な機器が開発されていくことも期待されます。
プレゼントへのお返しがつながっていく
これまで存在しなかったものを世界に送り出す。無いところから何かを生み出してプレゼントする。発明するとはそういうことです。特許や意匠登録などたくさんのアイデアが今日も世界中で生み出されていますが、その中で全人類に光を届けるような、文字通り明るいプレゼントはそう多くはありません。だからこそ、今回受賞対象となった発明には大いなる意義があると言えるかもしれません。
今回の受賞では日本中が喜びにあふれたように感じます。もちろん、日本人が栄誉ある賞を贈られることになったという喜びもあるでしょうが、こんなに盛り上がっているのは「日本人の受賞」というプレゼントを、みんなが受け取ったからだと感じます。
研究期間が60年に及んだという85歳の赤崎さんの言葉の重みと、何とも言えない笑顔の組み合わせ。実験装置の不備を逆手にとって優れた結晶構造を得ることに成功したという、まるで絵に描いた発明物語のような天野さんのエピソード。そして、研究の原動力は「怒りだった」と語った中村さんの言葉。所属していた企業との間での特許に係る訴訟では、権利を主張しすぎとバッシングされることもあった中村さんにとって喜びも一入だと思います。
個性あふれる3人が「革命的な発明」とまで評価されてノーベル賞を受賞したことは、インディビジュアル、つまりこれ以上分割できないという意味での私たちひとりひとりの個と、私たちの個としての発想が、全人類へのプレゼントを生み出す可能性を秘めていることを示しています。
それは物理学や科学の分野でのみ言えることではないでしょう。この受賞が、科学への夢や信頼の回復といった狭い枠の中で理解されるのではなく、インディビジュアルな個人にでも大きなプレゼントを生み出せるという、大きな希望の光として受け止められるといいですね。
3人の受賞というプレゼントに応える新たなプレゼントが、若者を中心にたくさんの人々の手で世界にお返しされていきますように。
文●井上良太