最初に出会ったのは、石巻日日新聞が運営するニュース博物館「石巻ニューゼ」2階のレジリエンスバーでのことだった。ちょうど去年の春先頃だったか、久美子さんが「試食してみて」と出してくれたのが「木の屋」のさば味噌煮を使った生パスタ。缶詰とは思えないおいしさに、唸った。
木の屋さんのことはいろいろと話を伺っていた。石巻の漁港近くに本社があって、震災で工場も倉庫も全壊したこと。シンボルだった鯨大和煮が描かれた巨大タンクは、500メートルも流されて県道石巻女川線の中央分離帯に横倒しになったこと。津波を被ったものの中身が無事だった缶詰を拾って洗って再生したこと。東京の下北沢には缶詰料理の木の屋Cafeがオープンしたこと。全国からボランティアが集まって缶詰拾いや洗浄を手伝ったこと……。
そして、久美子さんの生パスタを試食させてもらった春には、海から離れた内陸の美里町に新しい缶詰工場がオープンしていたのだった。
いいサバが獲れる時期に、いい素材を厳選して
「うまい、うまい」と、感想を言うのも忘れてパクついていたら、久美子さんが目を細めて教えてくれた。
「木の屋さんの缶詰はね、いいサバが獲れる時期だけの限定なのよ。たとえシーズンでも、いいサバが入って来なかったら缶詰にしないの。だからなのよね~」
その時にはたしか、すでに「いいサバ」のシーズンは終了していた。しかも木の屋さんのサバ缶は人気も高くて、そのシーズンの製造が終了するや、すぐに店頭からも姿を消してしまう。レジリエンスバーで食したのは、まさに「幻の試食」だったというわけ。
いつかは木の屋のサバ缶
たしかあの日は石巻旅行の最終日。レジリエンスバーを出るや、「あんなおいしいサバ缶、買って帰らない手はないと」と駅前の物産センター・ロマン海遊21に買いに行くが、すでに売り切れ。他のお店も思いつかず、そのうち帰りの電車の時間になって、そのシーズンは諦めるしかなかった。
「また秋になれば」
そう思うことにしたのだが、秋から冬にかけてはなかなかタイミングが合わないままに年が明け、しばらくして木の屋さんから在庫がなくなったとのアナウンスがあった。春になって、石巻の小売店には探せば在庫があるかもと期待をつないで、何店か回ってみたけれど見つからず。
最初の出会いのインパクトが大きかっただけに、再会できないのは辛い。次の秋のシーズンまで2年越しで再会を期することになるのかぁと思っていたら、7月のとある日、意外な場所で木の屋さんのサバ缶に出会うことができた。
最初の出会いから、待つこと(苦節)16カ月。やっと出会えたのは、「石巻マルシェ 大森ウィロード山王店」。東京の町中の商店街にある石巻のアンテナショップ。
石巻の海産物が並べられた一角で出会った時の喜びといったら!
地元でもすでに売り切れ続出のレアな商品を東京でゲットできるなんて。さすが石巻のアンテナショップ。東北の町の海の幸・山の幸のいわばセレクトショップなのだから、現地に行くのと同じくらいうれしい出会いがあるかもですね。
次のシーズンには石巻に行って、できたてほやほやのサバ缶を購入せねば。今回手に入れることができなかった金華さばみそ煮(産地限定品)もゲットしたいし、木の屋さんにも行ってみたい。だいぶ気が早いけど、いまから予定をたてるかな。
写真と文●井上良太