長く警戒区域に指定され、自由な立ち入りが制限されてきた富岡町を歩くと、いろいろな場所でクツを見かけた。
震災と原発災害に見舞われるまで、誰かがきっと履いていたクツ。人が歩くためにつかってきた身近なアイテム。
被災地でクツを見かけるたびに持ち主のことが気にかかる。
津波にやられた家の片付けに入った時、片方だけ残ったクツを入れたのか。
植木鉢のようにも、ゴミ箱のようにも見える容器に、このクツを入れる時、その人はどんなことを思ったのだろうか。
ガレキの仮置き場にはゴミ袋に入れられたクツ。
駅前商店街の道端には、靴底だけがぽつんと。
線路そばの水たまりには、何かのスポーツ用らしきクツ。
どれのクツも、もはやクツとは呼ばない姿になってしまったものも、
持ち主がお出かけしたり、走ったり、スポーツしたりするときに履かれていたもの。
いわき市久之浜で見つけたサンダル。
ピコピコ。歩くたびにピコピコ。
音が聞こえてくる。姿が目に浮かぶ。
持ち主の無事を祈った。
●TEXT+PHOTO:井上良太(ライター)
被災地に残された生活の遺物はガレキではありません。ましてゴミなんかではありません。