こどもたちと未来を。石巻・女川⇒伊豆ツアー

「冷てー!」
「でも、おもしろーい!」

桜は満開だけど、曇り空でちょっと肌寒かった3月30日の静岡県・伊豆。狩野川の水の中にこどもたちの声が響いた。

カヤックに乗って川の中州へ上陸したり、ライフジャケットを着て急流の中を流されたり、水を掛け合ったりして楽しんだのは、宮城県石巻市のこどもたち。この3月に中学を卒業し4月から高校生になる14人と、女川から来たパパ、ママ、小学生のボク、そして未就学児のファミリー、さらに地元伊豆の小学生2人組。

春休みを利用した2泊3日の伊豆ツアーは、震災直後から被災地のこどもたちの受け入れを行ってきたNPO法人伊豆どろんこの会が「新しい公共」の支援事業として実施したもの。

やんちゃさをフルに発揮して、遊ぶ!遊ぶ!遊ぶ!

そのカヌーの乗り方、間違ってるから。なんて言われてもお構いなし。自然の中で、そこにあるものを利用して、どんどん新しい遊びをつくっていく。

「冷てー!」とか「サイコー!」とか、
もう言葉にすらならない「ぎゃー」とか「わー」とか、
いったいどれくらい叫んだだろう。

春の川の流れの中、思いっきり大声を出して、大笑いして、フル回転。

川に入る前に「普段はどこで遊んでる?」と聞いた時、
ぼそっと「家…」とか「イオン…」と応えていた顔と全然違う。別人だ。

被災地を支援する助成事業がどんどん縮小されているけれど、こどもの遊び場や放課後過ごす場所の問題はほとんど解決されていない。はじけるようにはしゃぐこどもたちの様子を見て、まだまだ支援が求められていることを感じた。

川から上がったその後は、次なるメニュー「サバ缶」。

ビールなんかの空き缶を使ってご飯を炊く「サバイバル空き缶炊さん」だ。

山の上の牧場でお菓子作りを楽しんでいた女川町の小学生や未就学児、お父さんお母さんたちも合流して、ホテルアクアサンタのパティオがキャンプ場に早変わり。

サバ缶のしくみは簡単。下の缶がかまど。上が釜。下の缶には切れ込みを入れて、燃料の牛乳パックの短冊を入れて燃やす。上の缶には研いだお米と水を入れてアルミホイルでしっかり蓋をする。あとは火を消さないように、燃料の牛乳パック短冊を火にくべ続けるだけ。

やったー!できたよー!

頑張った人はこの笑顔。

ホントだ。いい匂い。ふっくらやわらかに炊き上がってる。

もう炊けた人もいるけど、そっちはどう?

「煙いっす」「煙いっす」「火がすぐに消えるんっすよ」

火が消える時の、猛烈にけむたい煙が目に染みる。火をくべろって言われても、目が開けないほど。

ホントに炊けるんすか?なんて諦めぎみの声を出しつつも、けっきょく最後まで頑張ってしまった。それだけ食い気が勝っていたということか?!

サバ缶はご飯じゃなくて、ほんのおやつ。

夕食前には恒例の餅つきがスタート。実はこの直前にちょっと事件があったのですが、中学から高校へ上がるお兄ちゃんお姉ちゃんたちも、小学生たちも一緒に心配して、協力して、ピンチを乗り越えるという場面がアリマシタ。

それををきっかけに団結力アップ! かと思いきや、やっぱり微妙なミドルティーン。とくに男子は遠慮しがちなんっす。

「ほら、パパ(あだな)、しっかりついてよ」

と女子から催促の嵐。

そうかと思ったら、

一言「任せとけ!」と、餅つきマシーンぶりを発揮する男子も。

この微妙な感じがミドルティーンの魅力。でも、簡単には打ち解けられない、難しい世代ではある。

「だから――」

とは、伊豆どろんこの会の白井忠志会長(餅つきの写真でピンクのタオルを頭にかぶっている方です)は言わなかったけれど、彼らや彼女たちを招待した理由をこんな風に話してくれた。

「知り合った人とは、ずっと関わっていきたいんだ」

今回招待した人の多くは、伊豆ツアーのリピーターだ。震災直後の石巻。避難所となっていた中学校で出会って、伊豆ツアーに来てもらった子もいる。白井さんの記憶の中には、まだ中学1年生だったその子たちの面影がある。避難所にいた時の眼差しとか、伊豆に連れてきた時の笑顔とか、1人ひとりへの思いがある。

「本当はね、できるだけたくさんの人をツアーに招待したいんだよ」

白井さんは震災直後からずっとそう言っていた。でも、すべてをすることはできない。自分たちは行政ではない。限界がある中で活動するのなら、できるだけ内容の濃い付き合いをしていきたい。

「出会ったこどもたちと、付き合いを深めていくことで、きっと伝わっていくものがある。やんちゃな子もいるけど彼らはね、みんなリーダーになっていく人だと思うんだ」

話を聞きながら「もちろんだ」と思った。
その思いが伝わらないはずはない。
いますぐじゃなくてもいい。たとえば何年かたった後に、

「あの伊豆の人たちは、どうして自分たちを招待してくれたんだろう。あの人たちにとって何の得でもないことなのに」

と思ってくれることがあれば、それが思いが伝わるということだ。
理屈抜きに「なぜ?」が「!」に変わって、胸の中にストンと落ちることだろう。

白井さんには「大いなるシタゴコロ」がある。

「必ず起きると言われる東海地震。その時には、今度はこの子たちが助けに来てくれると思うんだよね」

いいね。さいこーだね。そんな下心で、日本中がつながって行けば、すごいと思いませんか?

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カヤック体験のはずなのに、ぜんぜんカヌーに乗ってないじゃん! との証拠ビデオ。とにかく水の中で遊ぶことが楽しみで、楽しみで、この日を待ち焦がれていたのだそうです。

●TEXT+PHOTO:井上良太(株式会社ジェーピーツーワン)