佐久島ゆる文化?貝紫染め体験
貝紫染め体験をやってみよう
愛知県・三河湾に浮かぶ佐久島。その休憩所、弁天サロンにやってきた。さすが夏、外は炎天下、海で泳ぐ観光客はちらほら見かけても、海辺以外ではあまり人を見かけない佐久島。こうなると、島を遊ぶ側の立場にとっても、外に出突っ張りでは疲れてしまうし味気もない。
そんな中、弁天サロンで行われる「貝紫染め体験」に参加することにした。「離島の楽しみかた」を取材する僕の琴線に触れたのだ。なんだかいかにも「伝統的な郷土民芸っぽい」のがその理由だ。インストラクターは佐久島に生まれて70年近いという”島のおふくろさん”が行ってくれるという。これは期待せずにはいられない。おふくろさんの準備を待った。 ナイロン製のエプロンと手袋を渡された。エプロンにはやや染料が飛び散っているのか、すでにその紫色で色鮮やかに汚れている。
「それじゃはじめましょうか。」貝を5つ持ってきたおふくろさんが合図する。
「貝紫染め」とは、佐久島の西側集落・弁天サロンで行われる。佐久島産のアカニシ貝に含まれるパープル腺から染料を取り出し、その染料でハンカチなどの織物に色付けを施す染物だそうな。参加費用は1人2000円。
男の子なんだから・・・
「はい、あんた男の子なんだから自分で割らないと!」はっと見渡すと、確かにこの弁天サロンに”男”と呼べそうなのはどうやら僕しかいない。ひと通り、写真パネルでレクチャーを受けた。まずはアカニシ貝の殻を叩き割る。石の上にアカニシ貝を置いて、ハンマーでガツン。おふくろさんは馴れた手つきで殻を割りはがした。
次にカミソリでアカニシ貝をさばいてパープル腺をめくり、そこに付着してある染料をピンセットで採る。よしよし、なるほど。あ、思ったよりも簡単そう。ほかの島などで、釣り上げた魚などをさばくとき、どうしてもシメるのが苦手な筆者。さばくことに多少の苦手意識はあったが、アカニシ貝にはその生き物っぽさをあまり感じなかった。渡された手袋とエプロンを装着して気合十分。よし、これならいけそう。 「あれ?この子には見当たらないねぇー・・・」
ひとりで手ごたえを感じていた筆者だが、おふくろさん曰く、「1つの貝からパープル腺がたくさん採れるとも限らない」そうで、「全然採れないこともある」そうだ。結局、おふくろさんがさばいた1つめの貝からはパープル腺(染料の素)が採れなかった。2つめの貝からもあまり採れず。3つめでやっとそれなりの量のパープル腺が採れた。 「良かった。良かった。貝も5つしかなかったから、採れないと何もできなかったのよー。貝は漁師さんから分けてもらっているから、予備もないし。」
・・・と言ってるうちに、5つ目の貝まで全部さばいてしまったおふくろさん(!)。 「あ、エプロンと手袋はもう外していいよ。」
・・・あ、男の子なんだから・・・自分で・・・あれ(?)。おふくろさんはマイペースだった。
特に伝統的でもないらしい
結局、パープル腺と海水を混ぜた染料づくりまで、おふくろさんが仕上げてしまった。さて染料ができたら、今度は色付けの作業である。ハンカチとランチョンマットのどちらかを選び、数十種類の穴あきの型紙を用いて、筆やブラシで染料を色付けしていく。鳥、草、花、魚、波、蝶、つくし、とんぼ、うさぎ、えび・・・などなど。そしてこれが意外と楽しい。一見地味な作業だが、小学校時代の図工の時間を思い出してか、ついわくわくする。
夏の島、昼下がり、海の見える休憩所、そしてこの作業。昔懐かしい雰囲気がなんともたまらない。 「これって、佐久島では昔からやっているんですか。」
あぁ、そうだ。色々質問したいことがあったんだ。そう思って聞いてみた。 「いやぁ、そうでもないよ。外国でこんなこと(貝紫染め)をやっているらしいんだけどね。佐久島でも染料になるアカニシ貝が獲れるからって、最近だよねぇー、こういうことやり始めたのは。」
懐かしい雰囲気せいかすっかり勘違いをしていたが、この「貝紫染め」は特に伝統的な郷土民芸というわけでもないようだ。へぇ。でも、こうやって新しい文化が生まれるのは、島の活性化にとって良いことだなぁ。 「でもこういう染物、よく考えつきますよねぇ。貝から染料を採るなんて発想。外国って言ってましたけど、どこの国がやり始めたんですか。」
せっかくの機会、色々聞かなくては・・・と思ったが、 「あれは・・・どこだったかなぁ。忘れちゃった。ははは。」
茶目っ気たっぷりで、そんな回答をするおふくろさん。なんともゆるい。・・・根ほり葉ほり質問するのも野暮かも知れない。このなんとも言えない穏やかなゆるい空気が、取材の意識を奪っていく。あとで調べると、地中海発祥で古代エジプト、ローマで流行した特権階級向けの染物だとわかったのだが、そんな高級感も佐久島には良い意味で無関係な気がしてきた。 インド発祥のカレーが欧風や和風に変化したように、地中海発祥の「貝紫染め」も、古代エジプト、ローマ、佐久島、おふくろさんを経て、いつしかゆるい文化に変化した。こう考えるととてもしっくりくる。
貝とスイカとウリを同時に食べる昼下がり
できあがった染物は、日光に当てると紫色に染まっていくらしい。暖かい夏の日は、干すには絶好だ。干して建物に戻ると、おふくろさんが、佐久島で採れたスイカ、マクワウリ(メロンのような味のウリ)を切ってご馳走してくれた。さらに、染物に使ったアカニシ貝も湯がいておすそ分け。どれもとても美味しい。これぞまさに佐久島の雰囲気・・・いや、マイペースなおふくろさんの雰囲気なのかも。
「アカニシ貝はサザエと似たような味だけど、こっちの方が甘みがあっておいしいの。」と、豪語するおふくろさん。たしかにやや甘味があり、サザエのようなクセのある苦味も無い。歯ごたえもなかなか。しかし噛み続けていると、奥からじわっと旨味も感じる。これはうまい。
・・・うまいけど、よく考えてみると「貝とスイカとウリを同時に食べている」という、死ぬまでに2度となさそうなこの状況も不思議だ。・・・これもマイペースなおふくろさんならでは、か。
◇参考情報◇弁天サロン「貝紫染め体験」 (ホームページ)
◆住 所・・・愛知県西尾市一式町佐久島西側41
◆電話番号・・・0563-78-2001 ◆営業時間・・・9:00~17:00
◆休 み・・・月曜日 ◆体験料金・・・1人2,000円/団体(6人以上)の場合は1人1,500円
◆備 考・・・アカニシ貝準備のため、1週間前までに要予約。
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