地中海の滝

見てみたかった地中海の大瀑布 

古代ギリシャ文明やローマ帝国など、西欧文明を育んできた母なる地中海。美しい島々と豊かな魚介類、そしておいしいワインを育てる気候。世界的な観光エリアでもある地中海ですが、およそ600万年前には海が干上がって地中海ならぬ地中凹地になった時代がありました。

地中海は太古の海テチス海の名残と考えられています。かつてはゴンドワナ大陸とのローラシア大陸の間の「開かれた海」でしたが、アフリカ大陸がヨーロッパ大陸に近づいたり、インド亜大陸がアジアに衝突したりといった、大陸移動とそれにともなう地殻変動によって東側は閉じられ、南北間は狭められ、ついに西のジブラルタル海峡のあたりも塞がれて、地中海は外洋から断絶してしまったのです。外海との連絡が断たれても、周りの河川から水が供給されれば海としての体裁は保てたかもしれません(カスピ海のように)。しかし、地中海の沿岸部は現在と同様に乾燥した気候だったのでしょう。川から流れ込む水量よりも、太陽に焦がされて蒸発する水の量が上回り、地中海は次第に干上がっていきます。

地中海沿岸部で分厚い岩塩や石膏の層が見られるのは、その時に海水が蒸発して析出したものと言われています。1970年には深海掘削船グローマー・チャレンジャー号が海底の地質を調査。広い範囲で石膏や苦灰岩といった蒸発岩を発見し、地中海の全部あるいは大部分が干上がっていたことが確認されました。地中海が干上がってしまった大事件は、メッシニアン塩分危機と呼ばれます。ところで、現在の地中海は凹地ではなく海ですよね。再び海に戻った年代は約530万年前。地殻変動か大規模な海進(温暖化等で海水面が上昇すること)で、地中凹地と大西洋がつながった時、ジブラルタル海峡のあたりには巨大な滝が現れたと推測されます。

ジブラルタル海峡の幅は、もっとも狭いところでも14キロ。この幅の巨大な滝がかかったとすれば、とほうもない絶景だったはずです。ナイアガラの滝で最も大きいカナダ滝の幅でも670メートルに過ぎないのですから。530万年前と言えば、人類の遠い祖先が類人猿から分かれた頃。私たちの祖先はジブラルタルに掛かった巨大瀑布に歓声を上げていたかもしれませんね。